△エジプトまで旅をした女性(26)、杜王町へ行く。


「ここが杜王町か……」
首都圏から新幹線に乗り、在来線を乗り継いで30分も掛からずにたどり着いた、ここ杜王。町の中心部からはずれれば緑に溢れ、まさに自然と共存している。町の花はフクジュソウ。名物は牛タン味噌漬け。各種名所あり。
そういう私はなまえ。過去に運命に導かれエジプトまで50日間の旅をしたこともある。謎の「弓と矢」と「連続殺人事件」の調査の助っ人として呼ばれたはいいものの、私のもとに届いた情報といえばほんの一握りのものだった。
いや、もしかして本当にこれだけの情報しか掴んでいないのかもしれないな。
承太郎からの電報を折りたたみ、胸ポケットに入れる。電話じゃ盗聴の可能性があるからという理由でQ太郎から祝いの電報が届いたときには驚いた。なにも夢の国のネズミに持たせなくても。見た目はゴリラのくせに、そういうところは中々かわいいから結婚できたんだろう。結婚式のあった数年前、ポルナレフもそう笑っていた。

「おっと……立ち止まってる場合じゃなかったな」

今日の目的地は杜王町ではなく、杜王町のグランドホテル、324号室。海と町の境い目にあるというあたり、承太郎らしい。たしか駅から直行のバスが出ているはずだが……バス停はどこだろう。こういうのは近くになればなるほど分かりにくい。
ホテルのパンフレットを握り締めながらウロウロしていると、学生服姿の高校生にしてはちいさな男の子がソロソロ近付いてきた。

「あの〜もしかして、杜王町グランドホテル行きのバスを探してます?シャトルバスならあそこから出ますよ」
「あ、ああ。ご親切にどうもありがとう」
「いえ、お気になさらず。知り合いが宿泊しているので、ちょっと気になって」
「へぇ」

それは大層変人なのだろう。なぜ変人と思ったかは私にもよくわからない。
少年に軽くお礼を言って踵を返す。今の時代にしてはとてもいい子なのだけれど……彼の背後から髪の綺麗な女の子がものすごい形相で睨み付けてくるから長話もしていられなかった。きっと彼女だろう。その姿を見て若いな、と思うほど私も相当歳を重ねてしまっている。
そうこうしているうちにバスが来て、やっとホテルにたどり着いた。観光用、滞在用の立派なホテルだ。しかも長期滞在でスイートルームを取っているのだから、SPW財団はちょっとばかし気を遣いすぎだと思う。あまり慣れていないのでホテルマンに荷物を預けることすら緊張する。取り敢えずはチェックイン。

「お帰りなさいませ。ご予約のお名前をお願い致します」


「……花京院なまえです」


そう、私の名前は花京院なまえ。
ヤマトナデシコのように半歩下がっているだけなんて私の性には合わないし、夫の典明を危険には晒したくない。例の電報は焼いて捨て、杜王町には一人でやってきた。
書き置き?もちろん、「実家に帰ります」これに尽きるね。



△東方仗助はチョコレートパフェが好き


カフェ・ドゥ・マゴで一人で過ごすのも暇だったので、学校の帰り際の仗助を誘ってみた。遠くからでも分かりやすい、その髪型に向かって奢るからと囁くと、テラスにコロコロと子犬のように転がり込んできた。ふふふん、現金で、でも憎めない可愛いやつめ。私も一応16歳の時はあったがこんなに愛嬌はなかった気がする。
仗助は普段高いから頼まないという、大きなチョコレートパフェをつついて満足そうだ。サイドにチェリーが乗っていたので、それだけ無言で口に含む。支払うのは私だし、文句は言わなかった。

「そういえば、なまえさんって結婚してるんスか?」
「ん、まあね。承太郎もそうだし、私の年齢じゃ特に珍しいってこともないさ」
「しっかし考えられねェなあ、俺今16で、10年後に結婚なんてよォ〜」
「ま、恋愛はなるようになるって」

典明との出会いは最悪だったし、旅の中でも全然そういう感じではなくて、どちらかというと仲間意識の方が強かった。旅を終えてやっと、典明を男の人だと認識さし始めたぐらいだから。成り行き、という言葉があるのだから本当にどうにかなるものだ。

「恋愛かあ……してみたいなぁ」
「やれやれ、承太郎と同じでモテるのに勿体無いなぁ。性質は違うけど似た者同士というか、血は争えないね」
「俺は純愛派なんですぅ」

あのジョースターさんの血を引いた息子であるなら、もうちょっとガッついても問題はないような気がする。作ろうと思えば作れる、その気持ちにストッパーを掛けているのはやはり女手一つで育ててくれた母の存在があるからだろう。あと金が絡むとやたらやる気が出るのも。(ブランド品は大好きだが)
とかく、ジョースター家は母を大事にする。聖なる愛と黄金の精神を持ち合わせた彼らを、財団もツェペリ家も、好きになったのだ。

「参考までに聞きたいんスけど……なまえさんは、旦那さんのどこに惚れたんスか?」
「……それ聞くぅ?」
「俺もそういう風になれたらいいなァと思って」
「ふふ、わざわざ人の真似をしなくても、仗助の心に惚れる運命の相手が、どこかにいると思うよ」






花京院が生きていれば



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