可愛いと思うこと。
美しいと思うこと。
愛しいと思うこと。
これを、二十四という年齢になってやっと意味を飲み込めた。きっとあの頃。十四歳にしては苦労した人生を送ったやつは、こんなこと口に出さずとも分かっていたのだろう。あのひねくれ物さえ。大した不幸もない人生を送った俺は、何一つ分からなかったし知りたくもなかった。一言で説明するなら若さが原因だった。気恥ずかしいからあの感情を押し込めていた。
十年後に外国の地で暮らして、初めて側に誰もいないことの寂しさを知った。まったく知らない環境に一人。憧れていた時期もあったが、今は違う。意味の分からないイタリア語を聞いても隣に誰かがいてくれる温かみはなかった。一人でいることに慣れたあとも、ある程度イタリア語を使いこなせるようになったあとも、あの寂しさを度々思い出した。




携帯電話の充電が切れていたのをすっかり忘れて、二日間机上に放置していた。慌てて充電機を繋ぎ、頃合いをみて電源を入れた。この二日間は三通メールが届いていた。滅多にメールしない友人からメールが届いていた。そいつはお前の近況なんぞ一通のメールで半年は分かる、というレベルの知己だ。この前メールしたのはいつだったか。なんとなしにメールを開くと、

今からイタリアに行きます。

と一言だけあった。流石にこれには目を剥いた。あいつはイタリアどころか一度たりとも外国に足を運んだことがない。ただ、行動力があるのは本当だ。エイプリルフールでもない限りやりかねない。メールの日付は2日前だ。内容が本当だとすると、とっくの昔にイタリアに到着しているはずだった。住所は教えてあるし、もしかするともうその辺をうろちょろしているかもしれない。そう考えるといてもたってもいられなくなる。ぞんざいに放ってあるコートを拾い上げ、メールを返信する間もなく寒空の外へ飛び出した。

はぁっと息を吐き出すと




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