がぷっと菓子パンに噛み付きながら、ぼんやり生暖かい空を見上げる。
この屋上に来れるのもあと数日を残すのみとなった。三年生のなによりも大事な決戦、受験も終わり合格点だなんだ騒いだのも過ぎた。あとは卒業式を待つだけのただの腑抜けになってしまった。本当にやることがない。たまーに部活に顔を出すが、やっぱり抜けたあとは一、二年で新しい体制が整っていて、私たちは部外者になってしまった。自分たちで感じているだけで、神童たちに悪意はない。自然の摂理だった。

「はぁああ…」

柄にもない。寂しいなんて。
生きていれば離ればなれになるのは当たり前だ。分かっている。分かってるけれど。

「やっぱり寂しいんだよなぁ…」

三年生になってから、色々なことがありすぎた。少し目を伏せるだけでたくさんの思い出が通り過ぎて行く。楽しかったことも辛かったことも。もし私が、一年生のときにそれがあったならば。天馬たちと同じ年齢ならば。せめて神童たちと同じだったならば。もっともっともっと、一緒に楽しくサッカーが出来たはずなのに。
菓子パン最後の一口を放り込む。甘ったるくていつまでも後悔の念に囚われる自分の思考のようで、甘いものは好きだが自分のことは嫌いになりそうだった。
サッカー棟からぞろぞろ一、二年が出てくるのが見えた。もうそんな時間か。私もいい加減、教室に戻ろう。しょぼくれている場合ではない。

「せんぱーい!」

その大きな声にはっとした。屋上を見上げた天馬は、無邪気な笑顔で手を振る。一緒に信助も、輝も。

「…天馬」

それに続いて、神童、霧野、狩屋も、あの剣城でさえも、小さく手を振っていた。まだ肌寒いはずなのに、心臓が温かかくなった。同じく目頭がじわじわ熱くなって、涙がこぼれそうになったが、先輩のプライドというものがある。気丈に振る舞って、笑顔で手を振った。本当に自尊心というものはうっとうしい。
後輩全員が校舎に入って見えなくなるともう涙に歯止めが効かなかった。こんなに優しい後輩がいて、なにを後悔していたのだろうか私は。もう、いいじゃないか。あいつらとこれ以上ない経験が出来ただけで十分じゃないか。

「それにさぁ、お節介な同級生もいるんだから、わたしはこの世代に産まれて幸せなのかもしれない、ね。三国、車田、天城、南沢」

自分で納得できるぐらい、幸せだったよ。



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