さびしくないよ、つらくないよ、のぞみは全部かなうよ、あのとき彼女はいった。くらいせかいに閉じこめられていたぼくを外につれだしたのは彼女だった。つくったのは永遠の子どもの城。大人をにくむ子どもの国。
大人なんて汚い。大人なんて卑怯だ。大人なんて傲慢だ。
あかちゃんに、幼児、すくった子どもは数知れず。閉じ込められているならば、少し機械に働きかけるだけでパスワードもなにもいらない。発端となった彼女はいちばんとしうえ。年下の子どもたちの面倒をよくみた。

そうして時が経った。

いまでもよく覚えている。僕が10歳の時だ。いつも早起きのはずの彼女は眠っていた。布団の上で静かに、息を潜め、まるで陶器の人形のように動かない。微かに上下する胸が生きていることを示していた。辛そうではない、し風邪を僕たちは引かない。進化した人類はみんなそうだ。「どうしたの」僕は歩み寄って手を握った。冷たかった。

「わたし」
「なに?」
「死ぬみたい」

弱々しく微笑んだ顔は本当に死を悟っていた。なんで!と聞く前に僕たちがこれから何をすべきかわ淡々と話始めた。メモは必要ない。ぼくは一字一句間違いなく覚えられる。まず、食料のこと。小さな子どもたちのこと。次に、身を守る武器を開発を頼んでいること。それから、次のセカンドステージチルドレンの皇帝は、僕に任せると、肌身離さず持っていたゴーグルを置いた。

「みんなを守ってね…サリュー…」

泣き声も泣き言もこぼす前に僕は皇帝になった。少し大きなゴーグルを首にぶら下げて、僕は元皇帝の部屋を出た。気配を感じたのか、メイアやギリス、ガロが近くで待っていてくれた。愚かな人類に自分達の力を示すときが来た。
あとで知ったことだが彼女は生まれた日、産まれた時刻、ちょうどに死んだ。それは20歳になるとき。大人にならずに死んだのだ。僕らセカンドステージチルドレンの寿命では大往生だ。やがて、僕らも同じ運命を辿るのだろう。生きてあと数年、急がなければならない。



- ナノ -