転校してきたばっかりの海王の第一印象は、ぶっきらぼうで、おこりんぼうで、口が悪くて、態度も悪い。浪川に限らず海王学園の生徒なんて、みんなだいたいそんな感じの人だった。属にいう不良だだった。九鬼さん以外の先生はみーんな困り顔をしている。
お前みたいなぼーっとしてるやつはすぐカモにされるんだって浪川は言うけど、実害はないからいいんじゃないかな。だって、ちょっかいかけてくる人いても、浪川が追い払っちゃうじゃない。そんなに悪者あつかいしなくていいのに。上っ面は悪くても、中身は真っ白な天使の心かもしれないよ。わたしは少しぐらいお話ししてもいいかなって思ってるんだけど。あんなことばっかりしてたらわたし友達いなくなっちゃうよ、ね分かる?浪川。

「ぜんっぜんわかんねぇ」

前の席に座っている浪川は振り返って怒ったみたいに睨んできた。浪川が睨むとみんな怖いって思ってるらしい。でも怖くないよ、ぜんぜん。昔からこうだもん。あとよくみたら可愛い顔してるよ。ちょっと前にそう言ったらまた浪川は怒った。やっぱり頭、悪いのかな。勉強のほうじゃなくて、べつの意味でね。せっかくほめてるのに。浪川は言い聞かせるように目の前に指を突きだしてきた。

「とにかく、だ、め、だ!」
「浪川はケチなの?」
「ケチじゃねーよ」
「ばか?」
「馬鹿でもねー」

なんだよ、もう。じゃあ浪川はいったいなにものなんだろう。ふてくされて机にぺったり伏せた。いっそのこと浪川なんか嫌いになっちゃおうかな。べそべそと嘘泣きにもならないあからさまな嘘泣きをした。浪川のあきれたような大きな大きなためいきが聞こえてくる。

「おまえなぁ…青葉に戻れよ?」
「ことわる」
「なんで」
「浪川はわたしが青葉に戻ったらさみしいでしょ?」
「ばっ、ばっかじゃねー!」

べちんと頭を叩かれた。いたた、わたし一応女の子なんだけどなあ。でもね、わたしはそれが照れ隠しだって分かってるよ。よかったね、浪川。それにしても浪川は本当になにも分かってないみたいだ。


―――
折れた。



- ナノ -