梅雨の延長のように雨が降ったけど、その日はすっかり雨は止んで、外は秋の空気だった。通学路のあちこちに水溜まりが出来ていて面白かったよ。水溜まりを傘の先でつつきながら歩いてた。何か気配がしてふと見上げるとメスとオス、二匹繋がったトンボがふらふら飛んでいた。たしかメスがオスの尻に噛み付いて繋がっているんだっけかな。卵を産み落とす水場を求めて飛んでいるんだ。私が住んでいたのは田舎だったから卵を産む場所はたくさんあったはず。でも彼らは何故か目の前の水溜まりに卵を産み始めたんだ。すっごく焦ったよ。そんなところに産んでも水溜まりは干上がってしまって折角の卵が台無しになっちゃうから。慌ててちょっと近付いたらトンボはどこかに飛んでいっちゃった。私も学校に行かなきゃいけなかったし、そのあとトンボがどうなったかは分からない。もしかして水溜まりにまた産んでしまったかもしれない。学校の帰りにはもう水溜まりは干上がってた。もうあの小さい命は消えたんだなってしばらく干上がった水溜まりの前でぼーっとしてたよ。


「ひぐっ、うぅ…」

「うーん、私の勝ち」



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