「仲良くしなさい」

親父、千宮路大悟は数年前のある日、突然女の子を連れて返ってきた。そう一言だけ言うと、いくら尋ねてもそれ以上女の子のことについて話してくれなくなった。何故だろう。何にしても、一つの情報もなく仲良くなれなんてはた迷惑な話だった。
どこか影があるが、明るい女の子はなまえというらしい。孤児院から引き取られたというのは、後々彼女自身から聞いた話だ。
思春期の男子として目覚め始めたころだったのと、長い間親父と二人暮らしだったのが手伝って、女に対しての耐性は全くと言っていいほどになかった。そんな俺には、いきなり現れた女の子をすぐに受け入れることは難しかった。しかし彼女には兄弟がいたらしく、俺に臆することはなかった。最初はさすがに戸惑っていたが、引き取り先に子どもが居たことが余程嬉しかったのか「大和」とすぐに呼ぶようになった。彼女の人懐っこい性格で、俺もだんだんと心を許していった。いつしか打ち解け、俺はなまえのことを妹のように大事に扱った。同い年と知ったときは驚きを隠せなかったが、やはり扱いは妹と変わらなかった。
俺の大事な、いもうと。


「…でもね、わたし、しあわせだよ大和」
「え…?」
「千宮路家に来てからずっとね、嬉しい。楽しい。ほんとの兄さんには会いたいけど、やっぱり、しあわせを感じずにはいられないよ。こんなに優しいとうさんも、にいさんも側にいてくれるから」

えへへ、といたずらっぽく笑う顔はもう泣いてはいなかった。無理して笑っているのかもしれないが、滅多に言われない温かい言葉に胸がくすぐったくなった。


―――
まぜまぜ



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