手入れをするたびギラギラ黒光りする銃身。何人もの命を奪った、私の重たい重たいスナイパーライフル。これで明日は戦場へ向かう。所詮隠れながらの援護射撃だが、流れ弾が怖い。そもそも戦いが怖い。戦場が怖い。死が怖い。兵士が弱音を吐いてはいけないのだと、そう教官からは教えられてきたが、怖いものは怖い。
「どうした」
サンダユウは手入れをしていた自分の片手銃を机に置いて、こちらをじっと見てきた。黒目が光る。
「いや、なにも」
視線を無視して、銃に弾を込めた。しかし上手く入らない。
「震えているぞ」
「武者震いだよ」
黒い油の付いた手袋。確かにその中私の手は小刻みに震えていた。武者震いなんかじゃない。明日が、全てが、怖いんだ。
「嘘だ」
向かいに座るサンダユウの目がまともにみれなかった。私のような下手な嘘つきは、人の目を見て話せない。これじゃあ嘘の意味がない。一旦銃を机に置いた。
「怖いんだよ…サンダユウ…」
震える手で握り拳を作った。本当は弱音は吐きたくないけど、もういい。サンダユウぐらいになら、言っても支障はないはずだ。
「明日こそ、死ぬかもしれない。死ななくても、間違いなく誰かの命を奪うんだ。もう戦場へ行きたくない…それだけ」
「………。」
そこまで聞くと、サンダユウはまた銃の手入れを始めた。
「怖いのはなまえだけじゃない。俺だってそうだ。みんな口に出さないだけで、戦場には行きたくない」
「…そんなこと、分かるのか?」
「全体に目を配らせていればな。なまえが一番分かりやすい。表情と行動に出る。やっと口に出して言ってくれたな」
「うっ…」
なんだか今になって恥ずかしい。サンダユウも分かっていたなら言わせなくても良かったのに。口角を上げて微笑む、というかにやけるサンダユウ。
「あとはお前が誰に好意を寄せているとかな」
「はっ?え、あぁっと…」
心臓が跳ねる。
「冗談だ」
「なんだ…」
「その反応を見る限りいるみたいだが」
「あっ」
「だから分かりやすいと言ったんだ」
夜更けなのにも関わらず大爆笑された。顔が赤くなるのが自分でも分かるぐらい熱い。恥ずかしさでいっぱいで、ぱくぱくと口が動くだけで声が出ない。
「まぁバダップ辺りが妥当なとこだな」
額を手のひらで押さえて、くつくつと喉の奥で笑いながら言った。いつまで笑えば気が済むんだろう。

―――
うーうーんー?



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