厳しく命令することは出来ても、話し掛けることが出来ない。
手を上げることは出来ても、優しく抱き締めることが出来ない。
俺は隊長でなまえは隊員、どうにも出来ない壁だった。壁を越える事が出来ない俺はどうしようもない意気地無しか。心の中で自嘲した。それになまえは俺のことをどう思っているだろうか。隊長の俺には好意ではなく、恐怖すら感じているかもしれない。
誰もが憧れる男女の甘い甘い関係。俺でも例外はなく、愛したい、愛されたい。決して表には出さない感情の一部でもある。

カチカチと旧式時計の針が進む音と、カリカリとペンを走らせる音がだけが先程から続いていた。時折書類をぺらっと捲る音がふと自分を我に帰らせた。その度に時計をチェックする。とっくの昔に日は眠りについて今は月の天下の夜だ。消灯時間は刻一刻と近付いて来ていた。

「なまえ、そろそろ切り上げるぞ」

ペンが止まるのと同時にびくりと肩を震わせた。

「あ、まだ私は全部終わっていないので、バダップさんお先に…」
「寝ないどころか風呂にも入らない気か?終わるぞ」
「はっ、はい!」

あわただしく書類の紙を軽くまとめて、なまえは立ち上がった。年頃の女子が風呂に入らず一日を終えるのは少々おかしいと思うのだ。

「あの…バダップさん…失礼かもしれませんが…その…」
「はっきり言え」
「ははははいっ!我輩バダップさんはお優しい方だと思う所存であります!」

もじもじしているかと思えば、ぎゅっと目を閉じ、口を一文字に結んでビシッ音がするような敬礼を、何故かしていた。

「…優しい?」
「ふっ不快に思われたならば申し訳ありません!いかなる処分も受ける覚悟は出来ているのであります!」

敬礼の姿勢を保ったままそう言った。


―――
いつか書く



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