なまえ姉さんは優しかった。俺と同じく厳格な父親に育てられたが、ひたすら心穏やかだった。俺が物心ついたときには、母親は家にいなかった。父親は訳を話してくれない。だから歳の離れたなまえ姉さんに母の面影を感じたのだろう。叱られたときも、落ち込んだときも、姉さんに甘えていた。…勿論、小さいころの話だ。

「お姉ちゃんご本よんで!」
「うん、いいよ。あら…またバダップ怪我してるじゃない」
「だいじょうぶだよ、いたくないもん」

そう言えば姉さんはすごいね、と同じ髪色の頭を撫でてくれた。俺はよく怪我をした。…もちろん、父さんの戦闘のスパルタ教育から出た怪我で、姉さんと父さんはよく口論をしていたのを覚えている。

「まず絆創膏貼ってあげる。それから本読もうね」
「うん!」

救急箱から絆創膏を取り出して貼ってくれる、色白の肌の指先が印象的だった。今考えると、母の遺伝だったのだろう。

「はい、終わり。今日の本はどれ?」
「これ!」

絵本よりも長く文章があり、姉さんの声をずっと聞いていることが出来たので、分厚くて重い父さんの本がお気に入りだった。ソファに座った姉さんの隣に座り、まだ読めない漢字の羅列を眺めた。どこを読んでいるかは分からなかったが、内容はなんとなく分かっていた。

「だからして、現代の人間に足りないものは…。」

優しい声。話は聞きたいのにどんどん眠くなってくる。よくぷつりと意識は途切れたものだった。





「バダップ…ねぇ、大丈夫?」
「…ん」

頬をぺしぺしと叩かれて目を開くと、姉さんが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。紅い瞳に自分の顔が写っている。あぁ、さっきのは夢か。今の姉さんはもっと成長していて大人びているんだ。

「ごめんね、すごく寝言言ってて心配なって起こしちゃった」

髪をすいてくれる手が心地よい。目を瞑っているとまた眠くなってきてしまった。

「お姉ちゃん、って昔の呼び方で何回も。もしかして怖い夢でも見た?」
「…いや、違うよ」

幸せな夢だった。



110428
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姉シリーズということで姉のページにも貼ってます。
肉じゃがさんリクエストありがとうございました!




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