「あまりふらふらするな」
「してないよ」
登校するときの約束みっつ。
そのいち、転ばない。
そのに、常に歩道側を歩く。
そのさん、急に走り出さない。
全て一度たりとも守られたことはない。特に『そのいち』が難題なのだ。今日は学校までの道のりを半分ほどしか来ていないのに、5回ほどなまえの腕を掴んで地面に倒れるのを阻止した。これは過去にないハイペースだ。
「まずさ、道路にバナナの皮が捨ててあるのがおかしいと思うんだよね」
「なぜそれを避けない」
「気付かないから」
まさに『足元がお留守』の代名詞のような人間だ。バナナで転ぶなんて漫画やアニメだけの話だと思っていたが、なまえと出会い、俺の常識は覆された。芸人かこいつは。
「わっ」
本当にバナナって滑るものなんだなぁ。
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「…サンダユウ。毎回私の教室まで来なくていいと思う」
「無料だぞ」
教室まで送り届けるのが朝の最後の仕事だ。ちなみに俺のクラスはなまえの教室より手前にあるので必然的に通り過ぎることになる。面倒臭いとは思ったことはないし、今まで一度たりとも欠かしたこともないのだから。
「いやそんなことじゃなくてさ…みんなの視線が痛いんだもん」
こんなやり取りを見てるのは朝早く来る集団のごく一部であったが、やはり恥ずかしいらしい。ちらちらと教室の様子を窺いながら上目使い気味に俺の顔を見てくる。
「見せ付けてやればいいじゃないか」
言葉通り教室の人間に見せ付けるように頬にキスをしてやれば、今日の朝の仕事は終わりである。何回やっても慣れないなまえは顔をいつも真っ赤にした。
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まえ|つぎ