「お母さん、洗剤いれすぎだよ」
「おや?」

これがわたしの母さんです。やさしくて、いつもたのしそうにニコニコしているけど、たまに怒ります。でも迫力がないのであまり怖くありません。あと父さんが天然だって言ってました。

「もうこどもに洗濯任せた方がいいんじゃないか?」

これがその父さんです。

「あはー、そうかも」
「笑い事じゃないぞ」

怒っても怖くない母さんの代わりに父さんはよくわたしを叱ります。母さんのことも叱ります。でも最後に父さんは全部許してくれます。とってもやさしいです。

ピンポーン

「あ、お客さんだ。お父さん一緒に行こ」
「おぉ」

この音がなると、お客さんが玄関に来てることをわたしは知っています。でね、家に来る人と言えば。

「エスカおじさん!」
「ようこども!」

母さんいわく大親友、エスカおじさん。けっこう近くに住んでます。飛び付いても怒らないんだ。ぐりぐりと頭を撫でてくれる。

「ほれ、サンダユウ。田舎から送られてきた枝豆」
「おっうまそう。いいのかこんなに」
「…いいんだよ一人で食べるのには多いから…」
「そんなに落ち込むなよ…もうすぐ三十路」
「やめろ!」

エスカおじさんはいわゆる独身というやつらしいです。早く結婚しろしろお父さんに会うたび言われています。この前「おめーの母ちゃんと仲良すぎてな、女との接し方がわかんねぇんだ…」って言ってました。これは二人だけの秘密らしいです。

「よう三十路!まだ二十代のミストレーネ様登場」

どうしてミストレーネおじさ…おにいさんは、エスカおじさんがお家に来るときちょうどよく現れるんでしょう。

「誕生日遅いだけだろド畜生め」
「あっまた汚ない単語使ってー。こどもの教育に悪いよ。ねー?」
「ねー?」
「二人とも、帰れ」
「いやん、俺は今来たばっかりじゃないか。エスカおじさんは帰っていいからこどもはお兄さんと遊ぼ」

ちなみにミストレーネお兄さんも未婚です。でもかのじょはいっぱい居るんだって教えてもらいました。これも二人だけの秘密です。

「ふざけんなこどもは俺と遊ぶんだよ」
「…二人とも近所迷惑だから家入れ」

お父さん二人とあそぶこと許してくれたみたいです。わいわいとお家が騒がしくなりました。

「あら、エスカもミストレちゃんいらっしゃぁーい」

のほほんとした顔で空の洗濯かごを持った母さんがやってきます。

「お母さん、お洗濯出来た?」
「こどものお陰で出来たよ、ありがとう」
「おい、洗濯物廊下に落ちてたぞ」
「あ、バダップおじさん」

白い髪のバダップおじさんです。三人のおじさんの中で一番最初に私を抱っこしてくれたと、お父さんとお母さんは何度も教えてくれました。

「入るなら一声かけろよな」
「エスカとミストレーネの後ろにずっといたが?」
「じゃあ気配消すのやめろ」
「すまん、癖が抜けんでな。ほら、落ちてた洗濯物」

バダップおじさんは軍のエリート、ってやつらしいです。偉い人です。すごい人です。

「ちょ、き、バダップくん…ぎゃああああああ!なんで私のブラ普通に拾ってるのうわぁああああ」

いつもは見られない素早い動きでお母さんは洗濯機の方へ走って行きました。

「バダップ…お前のデリカシーどこだ…」
「知らん。こども、また大きくなったな。将来が楽しみだ」
「へへー」

肩車がとっても高いです。

「どうだ今から訓練を始めた方が…」
「こどもに危険な真似はさせん!」
「ミストレーネお兄様とこどもが結婚するんだもんねー」
「それも却下だ!」

何を話しているかよく分かりません。ぐるぐる移動して、いつのまにかお父さんの抱っこに戻りました。

「なんで普通に…」

お母さんがぐったりと帰ってきました。

「そういえば、なまえ。また孕んだって?」
「あ、うん。そうだよー」

なんだか機嫌の悪そうなミストレーネおじさんだけど、優しくお母さんのお腹をさすりました。

「人聞きが悪いな!おめでたと言えおめでた」

お父さんがミストレーネおじさんを引っ張ってお母さんから引き離しました。
わたしね、もうすぐ小学校にも行くけど、おねえさんにもなるんだ!まだお母さんのお腹はちいさいけど、ちっちゃな赤ちゃんが中にいるんだって。楽しみだなぁ。

「よかったなぁ、こども。お姉ちゃんになれるってよ」
「うん!エスカおじさんもはやくあかちゃん連れてきてね!」
「は、はは…。あぁ、そのうちな…」

苦笑いされました。お父さん達はぶるぶる震えてそっぽを向いています。

「つまりだ、早く結婚しろエスカ」

そう言ったバダップおじさんは、もうすぐ婚約者さんと結婚するんだって。


110822
―――
エスカの行く末が心配

まえ|つぎ




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