絶対堕落した兄貴のようにならない。それが、俺が心に刻んだ言葉だった。王牙学園に入学して、いい成績を取り、いい生活、いい人生を送る。それも、他のやつらよりも上を目指す。
何度でも言おう。俺は、兄貴のようにはならない。

こんな俺にもなまえという、親友がいた。隣の家に住んでいて、いわゆる幼馴染みと言うやつだ。親同士も仲が良かった。なまえは俺と同じく王牙学園に入学することを夢見ていた。同志とでも言うべきだろうか。なまえは照れ屋で、無邪気で、泣き虫で、よく笑い、力持ちで、不器用で、食いしん坊なのに好き嫌いが激しい。そんなやつだ。小さいころから俺達は戦闘訓練に夢中で、生傷が絶えなかった。親はそれを酷く心配したが、やんちゃな俺達は聞く耳を持たなかった。自然とその地域のガキ大将の地位を得てしまった。たかが小学生の喧嘩と思うなかれ、それはもう激しいものだった。主戦力はなまえ、補助に手下。もちろん参謀は、この俺様だ。負け無しだった。ここで俺はそれとなくだが作戦の立て方、人の動かし方を学び、訓練所に通う頃には誰にも負けない参謀に成長した。

訓練所からなまえと帰宅していたある日、なまえの携帯に一本の電話が入った。「両親が事故で亡くなった」と。真っ青に染まるなまえの顔。その時俺は内容が全く聞こえず、何が何だか理解できなかった。スローモーションのようになまえの手から携帯が滑り落ちて、悲しい音を立てたことが濃く印象に残っている。
あの元気ななまえはどこにも居なくなった。泣くでもなく、無表情。話し掛けても一言ぽつりと返事をするだけ。こんなこと初めてで、どうしたらいいのか、分からなかった。激しい落ち込みの時期を通り過ぎると、戦闘訓練にのめり込み始めた。元々俺よりも強かったが、更に上を行くようになった。

遂に試験当日、強いなまえがトーナメント決勝で負けた。本当に信じられなかった。治療室から帰ってきたとき、貼られた湿布が痛々しくて目を逸らしたくなった。なまえは優しいから手加減でもしたかと問っても、「まさか」と一言。それならば何故負けたのか。

「つよかった」

そう語る無表情ななまえ顔は少し嬉しそうだった。斬られて不揃いな髪がぴょこぴょこと揺れた。

「あ、サンダユウ・ミシマ。おなかだいじょうぶ?」
「あ、あぁ。お前に比べたら…」

こいつだ、なまえが負けたのは。サンダユウ・ミシマ。信じたくない。信じたくない、こんな変なやつに、なまえが、あのなまえが負けたなんて。ずっと俺と一緒に戦ってきて、負け知らずで。なのに、何でさっきなまえは嬉しそうだったんだ?悔しくないのか?俺はこんなに悔しいのに。
苛立ちのままになまえの腕を掴み会場を後にした。王牙学園から徒歩で帰れるほど近い俺達の家。家までの道を早足で歩いていたが、家に着くまで耐えきれずに切り出した。

「…なんで負けたんだよなまえ…」
「ごめん」
「王牙学園入れなかったらどうするつもりなんだよ!俺達の夢はどうなるんだ!」
「ごめん」
「お前の父さんも母さんも、王牙学園に入学することを望ん…で」
「…ごめん」

駄目だ、熱くなって両親のことを口に出してしまった。なまえは一瞬顔をしかめたがまた無表情に戻った。

「でも、じぶんよりつよいやつにあえてうれしかった」
「………。」

…あぁ、そうか。この辺でなまえより強い奴なんて居ないんだ。だからきっとなまえは楽しかったんだ。すとん、といきなり胸に納得するものが落ちてきた。なんだか脱力してしまった。

「はは…。楽しかったならいいんだ。それに、なまえが入学出来ない、なんてことないよな」
「うん」
「後で髪整えに行こうな」
「うん」

サンダユウ・ミシマ。お前、なまえに気に入られたぞ。



110623
―――

今の地点での強さ比較
バダップ>サンダユウ>なまえちゃん≧ミストレ>エスカバ
でも十二歳だからそんなに大差はない?


まえつぎ




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