*過保護シリーズの昔話です。
初めての方はここから読まずに、普通の過保護シリーズから読むことを推奨します。
文章ばかりで長いです。
捏造甚だしいです。





他人に興味が無かった。
俺より成績がいいやつ、俺より強いやつがいようとも、そいつらの影でそれなりにほどほどに、生きて行ければそれで良いと思っていた。
友人はそれなりにいる。ただ、困ってるやつ、苦しんでいるやつがいようとも、手を差し伸べようとはしなかった。手助けで友達になろうとは思わない。冷たい人間だと思われているかもしれないが、面倒なことに巻き込まれるのは嫌だった。
他人に興味が無かった、というよりは関わりたくなかった、と言った方が正しかったかもしれない。深く付き合って、いつかさよならをして、悲しい思いなんてしたくなかった。
いつかの、お祖母ちゃんのように。
両親は共働きで多忙、俺は幼少期をほとんどお祖母ちゃんと一緒に過ごした。全てが、古ぼけていて優しくて温かかった。それも、さよならする時が来た。遂に家で一人ぼっちだった。一人で居ることは寂しかった。だからと言って両親を嫌いになる理由も無かった。悪いことをすれば怒る。いい成績を取れば誉めてくれる。普通の親だった。
両親は、十二歳の俺に王牙学園に入学することを薦めた。家からはかなり遠いが、成績優秀なことで有名だった。卒業すると色々と有利な事が多いらしいので、あっさりと受験を決めた。入学試験まで勉強、訓練、また勉強の繰り返し。人生の中の努力はここで終わらせたい。頭はそれほど悪くなかったので、勉強にはさほど苦労はしなかった。同じ年代の子と比べて体格も良かったので、訓練も苦ではなかった。寧ろ楽しいぐらいだ。だからなのか、友達は俺から離れて行った。それでいいんだ。別れの辛さなんてまっぴらだ。
髪がまた少し伸びた。

王牙学園の受験方法には学力試験、戦闘試験の二つがあった。俺は確実な合格の確率が高いであろう、戦闘試験を選んだ。広い試験会場には見るからに弱そうなやつ(何故居るんだ)、自信に満ち溢れているやつ(雑魚キャラに見える)、この有名な学園の合格を目指す奴等がたくさんいた。俺は他人にどう見えているだろうか。戦闘テストだが、女もちらほらと見えた。どうも恋は出来なさそうなやつらばかりだが。ふらふら見渡していると不意に肩を叩かれた。叩いてきたそいつは、顔だけが女で、髪を三つ編みにして垂らしていた。着ているのは、男子用の制服だった。

「君も髪伸ばしてるんだね。これあげるから結べば?」
「あ、ありがとう」

そう言うとさっさと去ってしまった。その途端周りの女達からきゃあきゃあと黄色い声が上がる。なるほど、いいアピールのダシに使われたという訳か。折角だから、だらだらと伸びていた髪を全て後ろで一纏めにした。少し短い前髪が余った。まぁ、支障はない。誰かがくすっと笑った気がした。隣には白髪の無表情な男がいるばかりで笑った主は分からなかった。どうでもいいか。

今回の戦闘試験はトーナメント式。勝ち上がり回数は関係無く、内容による判断らしい。武器は自由だが殺さないのが原則。防具も支給される。流石王牙学園、優しいのか厳しいのか分からない。一つのグループに八人。それが二十八グループ。受験者はざっと二百人。学力試験はこの人数の三倍の六百人。合わせて約八百人。この内の半分以上が落ちることになっている。

「1グループ…」

表示された名前を見て驚いた。一という出だしの数字だったなんて。抽選で決まるので、どこのグループでも不思議ではないか。すぐに始まるようだったのでろくに相手も見ず闘技場に向かった。

武器は銃が一丁と片手剣があれば十分だ。狭い闘技場で小回りが効く。銃は実弾ではなく、よく解らないが偽物だ。当たっても貫通はしないだろう。当たりどころが悪ければ死ぬかも知れないが。
何にしろ、相手が倒れれば終了。さっさとやってしまおう。一回戦目のライフルを持った標準的な男は銃弾一発で気絶した。運が良かった。
休憩所に戻ると、一回戦目を突破したらしき黒髪の男が、2グループの戦闘の様子を映したモニターをベンチで眺めていた。と言うことは、2グループの人間か。腕組み、足組み、いかにも偉そうだ。こっちの視線を感じたのか目を合わせてきた。目の下から耳の下にかけて隈のような黒いペイントがあった。

「よお、運が良かったな」

にやり、と尖った犬歯を剥き出しで笑う。もしかしてこいつは俺よりも早く、相手を倒して1グループの戦闘も見ていたのか?

「お前の、一回戦は?」
「不戦勝。相手が逃げた」

そんなこともあるのか。
後で知った話だがこの男、頭も良く強くて有名だったらしい。相手が逃げ出すのも頷ける。
男がモニターの表示を切り替えると、俺も参加している1グループの小さい女と男の戦いが映った。が、両者戦っていた場面は一瞬。倒れたのは男の方だった。

「なんだ、終わっちまった」

笑っているところを見ると、勝った女の方が知り合いのようだ。女は感情も捨て去り、酷く無表情だった。

「お前1グループだろ?気を付けた方がいいぜ」

また尖った犬歯を剥き出しにして笑った。

二回戦も無傷で勝利を納めると三回戦は、先程の女だった。なまえという名前らしい。「気を付けた方がいいぜ」とあいつは言ったが、どうも強そうには見えないのだ。だらだらとした襟元に垂れ下がったリボン。結ぶ気も無いのかぼさぼさの伸びっぱなしの髪。中に着ているワイシャツのボタンも掛け違えているような違和感もあった。ブレザーで隠れてよく見えない。兎に角、全てがずり落ちそうで、だるんだるんだ。
唯一ブーツだけは普通だった。

「おてやわららかに」
「こちらこそ」

どっちがそう言ったのか、それは今では覚えていない。
俺が発砲するよりも速く、女は動き出していた。相手はメリケンサック一つ、飛び道具を持っていない。なんとか銃でダメージを与えたいところだが…。相手は動き回っていて照準が定まらない。頭上から殴りかかって来たので慌てて飛び退くと、さっきまでいた位置は隕石が落ちてきたようにひびだらけにへこんでいる。あんなの喰らったら死んでしまう。上空からのパワーを差し引いてもなんつー怪力なんだ。パワーとスピードを兼ねる、なるほど「気を付けろ」だ。手強い。
何度か避けて分かったこと、拳が床や壁に当たってから若干のタイムロスがあること。そこを突けばどうにかなるかもしれない。
タイミングを見計らい、撃った。

「いっ!」

太股に命中した。よし、いける。女に傷を付けるのは気が引けるが、片手剣の出番だ。どうか出血で気を失ってくれ。

「ったいな…」

斬りかかったが、斬れたのは肉ではなく、長い髪だった。ばさばさと髪が落ちる前に、腹に衝撃が襲った。やられた。中に着ている防具もが無ければ肋骨が折れていたかもしれない。
目が霞んだが、二丁目の銃を一発。避けはしたが、足にダメージが相当来ているのだろう。動きが鈍い。追い討ちにもう一発。二発。三発目、さっきと同じ太股に当たり、床に膝をついた。
あとはそれを俺が押さえ込み、首に剣を当てて終了。

帰り際、表示されたモニターを眺めた。1グループ内、一位サンダユウ・ミシマ。これなら、きっと合格出来る。腹に痣は出来たが、包帯ぐるぐる巻きの周りのやつらに比べれば軽い。会場に溢れ変えるほどいた人数も半分以下に激減した。
同じく一位、ミストレーネ・カルス、バダップ・スリード、エスカ・バメル。顔写真を見て驚いた。こいつら三人をこの何百人居る会場でたまたま見かけたのだ。

「まけた」
聞き覚えがある声に見渡すと、エスカ・バメルとなまえが歩いてきた。こちらには気付いてないらしい。

「なまえ、手加減したか?」
「まさか」
「じゃあなんで…」
「つよかった」

なまえの足には大きな湿布が貼ってあった。痣になってしまったかな。斬ってしまった髪は所々長い。

「あ、サンダユウ・ミシマ。おなかだいじょうぶ?」
「あ、あぁ。お前に比べたら…」

鬼のような形相でエスカ・バメルが睨んでくる。さっきの余裕な顔はどこに行ったんだ。よっぽど会話をされるのが気に食わないらしい。すぐになまえの手を引いていなくなってしまった。
それでいい、付き合いが深くなる前に俺のことを忘れてくれ。

まさか一生に関わる付き合いになるなんて、この時は考えもしなかった訳だが。


110621
―――

まえ|つぎ




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