あなたたち、二人で出掛けてきなさい。と俺の母親に人差し指を差されながら言われたのは、ついさっきのことである。そしてこどもはまだ少し若いおばあちゃんとおじいちゃんと出掛けてしまった。問答無用だった。理由は、間違いなく可愛い孫と遊びたいから。なんて元気な初老だ。
そして、久し振りに二人きりのなまえと微妙に気まずい現在に至る。

「うーん、こども、迷惑かけなきゃいいけど…」
「俺に似てしっかり者だから大丈夫だろ」

五歳ともなると性格が安定してくる。完全に俺似に成長していた。嬉しい限りである。別になまえに似て欲しくなかったわけじゃないが。自分に似てると嬉しいだろ?
マグカップのお茶を一口飲んで、沈黙が続く。どこか行こうか、そう言うのを両者が待っている。

「あ、のさっ…」

耐えきれなくなったなまえが切り出した。いつも沈黙に痺れを切らすのはなまえが先だ。

「どこか行く?」
「じゃあどこ行こう」
「サンダユウの行きたいところ」
「特に無いんだが…なまえは?」
「私もない」

そしてふりだし。例えるならブチッ、と血管が切れる音がして喧嘩が始まった。

「あーもー!なんでサンダユウはわがまま言わないの!」
「なまえだって言わないだろ!」
「じゃあ言ってあげるよ!私、ケーキとアイスとパフェとクレープが食べたい!あとわらびもちとどら焼きと…」

吹っ切れたように食べたいものをつらつらと述べて行く。しかも甘いものばかりを。それを黙って聞いていた。

「…ぶはっ、それなら出掛けるか」

あっさりとわがままが聞き入れられると、はっとして顔を赤くした。うわぁああだの、うにゃーだの、妙な奇声を上げている。
ファミレスじゃあ可哀想だから、ちゃんとした店を回ろう。なまえはこどもにたくさんお土産を買おうと意気揚々としていた。財布の中身は…今日は考えなくていいか。



「おばあちゃん家に泊まる?」
「ってさ」
「はぁ…」

帰宅した七時ごろ。ちょうど電話だった。母が電話を掛けさせたのだろうが、こども本人から。その口調は、俺のようだった。口調はいつか女の子らしくなるとして、初めて実家に一人で泊まるのは大丈夫だろうか。泣かないだろうか。流石にそれは心配だった。

「でも、この前なんか洗剤入れる量教えてくれたから大丈夫だよ、きっと」

それはしっかりし過ぎだろう。
『今日中にお食べください』と書いてあるこどもへのお土産のデザートを確認して食べ始めた。さっき夕ご飯食べたばかりなのに、デザートは別腹ってやつか。少食のくせに本当、よくやるよ。

「なまえ、美味いか?」
「うん」
「俺が作るデザートとどっちが美味しい?」
「うーん?それぞれ美味しいよ」

首を傾げながらべろりと指についたクリームを舐めた。ああ、そっちに付いてるクリームの方が美味そうに見える。そう思ってなまえの手を掴んで、クリームのたくさん付いている人差し指を口に含む。舌でクリームを全て舐め取る。なまえは驚いたのか、なにも抵抗してこなかった。
少し卑猥な音を立てて、指から口を引き抜いた。銀色の唾液が糸を引く。

「…甘い」
「サ、ンダユウ…。それ子供の前でもやってた?」
「さぁ」
「っ……!」
「流石にやらないかもな」
「どっちなの!」

怒るなまえの口にクリームを付けた親指を突っ込んだ。


110729
―――

まえつぎ




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