*生理とかあれな単語出ます。




「五週ですね」

これは、余命宣告でも賞味期限でもない。

「おめでとうございます」

妊娠だった。




「サンダユウ…生理が来ない」
「んなっ…!」

ケーキ用の生クリーム作るため手に持っていた泡立て器を落としそうになった。いくら大人になったとはいえ、そういう単語にはいまいち慣れないところがあった。それで俺とエスカバが、散々ミストレに馬鹿にされたのがつい最近の話だった気がする。
……待てよ…生理が来ない、って言えば思い出す節がある。よし、焦ってない。焦ってないぞ俺。冷静だな。取り合えず生クリームは後回しだ。軽くなまえの肩を掴み、目を見て言った。

「なまえ」
「ん?」
「産婦人科行こう」

そして話は冒頭に戻る。




「大丈夫?」
「あ、おう…」

心配される立場が違う。たっぷりと医師の説明を受けた後、キッチンで生クリームを泡立てながらぼーっとしていた。今こんなことをしている場合ではなく、本当はなにか準備をしなければいけないのだろう。なまえは喜びの報告を電話で誰かに話していた。その話声さえ聞こえないぐらい、俺の思考は泡立てたクリームのようにふわふわとしていた。今の俺は凄く頼りない。
なまえと、俺の子供か…。あまり実感が湧かなかった。でも確かになまえのお腹には二つの遺伝子が、ひとつの愛の形が宿っているのだ。すごく、幸せで、嬉しくて、

「サ、サンダユウ?泣いてるの?」
「は?」

電話し終わったなまえに言われ、手で頬を触ると確かに濡れている。何滴か生クリームに入ってしまったかな。いつもなら考えられない涙の量だった。

「俺、…俺、嬉しくて…」

幸福が胸につまりすぎて苦しくて、微かに嗚咽がもれた。なんだかな、みっともない。そう思って俯いていると、なまえの両手に顔を挟まれて正面を向かされた。

「私も、嬉しいよ。きっとサンダユウと同じぐらい嬉しい」

そう言ったなまえの瞳は頭が混乱するほど強くて優しかった。ふにふにと頬を触られて気持ち良い。やっぱり女の人は精神が強くて、なまえも女なんだな、と感じた。

「もっと嬉し泣きしてもいいんだよ」

「…うぅ…なまえ…なまえっ…良かった、本当に…」

親になるとこんなにも涙脆くなるものなのだろうか。俺の涙腺はあっさりと崩壊してしまった。その日のケーキはなまえ曰く涙の味がしたそうだ。




「もしかして禁欲?」
「そうだね!」

今までにないぐらい清々しい顔だった。


おわり

110424
―――
あとで書き直すかもしれない

まえつぎ




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