「なまえ、朝だぞ」
そんなことは知っている。分かっている。君に朝だと言われたらそれが朝なのだ。いくらそう理解していても眠気と言う脅威には打ち勝てない。顔にかかった少し長い髪を優しく掻き分けてくれるサンダユウの手が心地よい。が。
「…あと五分…」
お決まりの台詞をかまし、薄い毛布に潜り込んだ。朝の光から遮断された暗い空間が落ち着く。嗚呼二度寝万歳。このままずっと眠っていられたらいいのに。
「遅刻するぞ」
毛布の上からぽんぽんと叩かれるが、起きる気などさらさらない。今日はもう少し寝させて貰おうと決心をした。反応を返さないまま、暫くそのままの硬直状態が続いた。ついに痺れを切らしたサンダユウが私のお気に入りの毛布を奪った。鬼だ。鬼畜だ。しかもそれを畳んでいる音がする。
「んー…」
寒いし、毛布が無いと落ち着かない。仕方なく起きようと思い目を擦る。完全な目覚めには時間を要した。サンダユウがいつも起こしに来る時間は6時。しかも上着を羽織っていないだけの制服に着替えてくる。ということは、少なくとも5時台には起きているはずだ。信じられない。というかおじいちゃんみたいだ。
くあっ、と可愛さの欠片もない大口の欠伸が出た。それを見たサンダユウは一体どう思っているだろうか。たぶん萎えたかな。
突如、ふにっと何かが半開きの口に触れた。しかも軽いリップ音を立てて一度離れたではないか。
「な…」
驚いて目覚めていない目を開くと、二度目のキスが降ってきた。今度は深く、ゆっくりと。朝から舌まで入れられたらたまったもんじゃないと口をつぐむが、それをペロリと舐められた。
「っ…」
あぁどうしよう、口内への侵入を許してしまいそうだ。自分も大概サンダユウに甘い。にしても寝起きでこれは、ない。
「サンダユ…ウ、分かった、起きるから」
ぎりぎりのところで理性を保ち、サンダユウの肩を軽く押した。口と口が離れる。にこりとサンダユウは笑った。
「顔早く洗ってこいよ」
ある意味これ以上に便利な目覚まし時計はないのだろうなぁ、とふらふら起き上がった。
まえ|つぎ