「こころ…」

寝る直前、なまえはぴたりと俺の胸に耳を当ててそう言った。

「サンダユウの心臓、早く動いてるね」

当たり前だろう、ぐいぐいと体を押し付けて来るのだから。つまり、あー…、残念ながら余り質量のないなまえの胸が当たる訳だ。すごく煽っているように感じるのだが、そんな雰囲気でもなく、無垢な子供を見ている気分にさせた。

「こころは、心臓にあるのかな」

俺の背中に回した手を強く握って心臓の鼓動をじっくり聞くかのように目を瞑った。なまえからも聞こえてくる、心臓が血を送り出し、血が戻ってくるその音。覚えている訳ではないが、まるで母親の体内にいるようで妙な安心感があった。…こころは心臓にある。なまえはそう言ったが、違うなと微睡みの中で思った。

「こころは気持ち、気持ちは頭で考えるだろ?」
「うん」
「こころは脳にあるのかもな」
「そっか…頭かぁ」

今度は目を開けて、俺の顔を見上げた。しかし、顔ではなくそれより上の頭を見ているのだろう。その瞳は俺の頭の中まで見透かしてきそうで、なんだかどきりとした。

「解剖したら、頭のどこにあるか分かる?」
「分からないさ。どこにあるのかも、どんなものなのかも…」






「サンダユウがそう言ったんだよ、覚えてる?」
「あー…」

それは中学時代だったのかいつだったのかは覚えていなかった。ただ十代のころなのは間違いない。

「こころ、どんなものか私はなんとなく分かった気がするなぁ」
「お。すごいな」
「なーんか馬鹿にしてない?」
「してないしてない」

なまえは俺の前髪をぐいぐい引っ張って、怒ったような素振りを見せた。

「じゃあ、どんなのか教えてくれよ」
「…うー。説明するのは難しいね」

でも、きっとふわふわして気持ち良いものだよ。


―――

まえつぎ




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