「大好きだよ」
「すっごく好き」
「むしろ愛してる」
そうなまえが愛を囁いているのは、俺に向かってではなく、ホームセンターによく併設されているペットショップのアメリカンショートヘアーだった。その戯れている姿は誰がどう見ても可愛らしいのだが、産まれて一ヶ月程度の子猫に嫉妬しそうになっている俺はどうすればいいんだ。
「なまえ…家で猫は飼えないぞ」
「えぇえー…」
そうなまえが言うと猫も同じく残念そうな声を出した、ように聞こえた。
「なんで飼えないの?」
「そりゃ毛が飛ぶし…世話は大変だし…」
「ねー世話は頑張るから!もう中学生じゃないんだよ」
ぷくっと頬を膨らませるその顔は、中学生時代と大して変わりはしない。まして、性格さえもあまり変わってはいないのだ。
「とにかくだーめ。帰るぞ」
「うー…」
名残惜しそうに子猫を店員に返し、俺の後ろをひょこひょことついてきた。
「あ、危ない忘れるとこだった」
「ん?」
そう言って自分の上着のポケットから取り出したシンプルな銀の結婚指輪。
「外してたのか…」
「猫ちゃんと遊ぶとき落としちゃったら嫌だなと思って」
あの猫程度に、外して欲しくはなかった。が、大事にしてくれているのだ。嬉しくてちょっと顔がにやけた。
「なまえ」
「なーに?」
「…愛してる」
誰にも聞こえないよう、そう耳元に囁いた。
―――
買い物の内容。
皿(割ったため)と洗剤(全て洗濯機に投入したため)。
まえ|つぎ