*二十代設定




「うーっすお待たせ」
「エスカバおそーい!」
「まぁまぁ落ち着けって」

居酒屋の待ち合わせに少し遅れてきたエスカバ。早くも酔い気味のミストレは、子供のように騒いだ。元々騒がしいところなのであまり目立つものではないが、一応たしなめた。

「げっ居酒屋なのに白ワインなんか飲んでるのか」

向かいに座ったエスカバがテーブルの上のボトルを眺めながら言った。

「ミストレに付き合ってな」
「うるさーい!なんでもいいからさっさとのめ!よえ!バダップもこないんだから!」

酔い易く、泣き上戸のミストレは涙目でまたそう喚いた。その十分後、酔い潰れて寝た。



酒豪のエスカバとビールを飲みながら他愛もない話をしていると、なまえの話題に転がってきた。

「ん、そういえばなまえは?あいつお前いないとダメダメじゃん」
「お袋に預けてきた」

母さんもなまえのこと娘のように可愛がってるし、何も問題はない。のだが、何をやらかすか正直心配だ。

「ふーん姑さんとも仲良しなんだな…」
「しゅうとめ?」
「あれ、お前ら結婚してるだろ?だから…」
「あーそういえば結婚してないな」
「ごぶっ!」

口を付けていたジョッキから思いっきり吹き出した。ぼたぼたとテーブルに垂れたビールを拭く。こういう関係はまだ昔のままだ。

「な、な、なんで同居生活も長いのに結婚してないんだよ!」
「うーん?忘れてた?」

一緒にいるのが、当たり前過ぎたんだ。だから忘れてた。

「はーあ…マイペースカップル…」
「じゃあ帰ったらプロポーズしようかな」
「今寝てるだろなまえは」
「よくお分かりで」

相変わらずよく分かっているエスカバに苦笑いした。なまえはいつまでたっても早寝だった。その気になれば起きていられるのだろうが、眠気には忠実だった。

「子供の予定は?」
「んー…」
「親御さんも早く孫の顔が見てえんじゃねーの?」
「年寄りくさいな…そういうお前は相手を見付けないと」
「うっせ」

エスカバはぐいっと残りを飲み干した。残念ながら、こいつの彼女いない歴は記録を更新し続けている。そして横で寝ているミストレは彼女はとっかえひっかえだ。前より家に来ることは無くなったまのの、相変わらず目を離せばなまえに食いついてくるので油断出来ない。ちなみに昔のあの事件はまだ根に持ってる。

「あ。エスカバ、今何時?」
「自分で見ろよな…」

そう言いながらも、律儀にケータイを確認してくれた。

「十一時ちょい前」
「もうそんな時間か…」
「帰るのか?」
「なまえが心配だから」
「はいはい過保護野郎」






ミストレを叩き起こして家まで送ると、あっという間に十二時を回っていた。
誰も起きていないだろうと思いつつ、実家に帰ると居間にだけ電気がついている。父さんか母さんかな…。

「ただいま…」
「サンダユウ」

ふらふらと歩いてきたのは、なまえだった。驚き過ぎて酔いが軽く覚めた。

「なんで起きてる、んだ?」
「眠れない」

なるほど、枕が変わると眠れないんだったな。いつまでたっても童顔のなまえの頭を撫でた。そうすると気持ち良さそうに、目を瞑った。こんなに子供っぽいのに、子供の世話なんて出来るのだろうか。でもきっと出来るよな、大切な自分の子供だから。

なまえの下唇を軽く噛んだ。

「う…お酒…」
「ごめんごめん」

ああ、お預けか。
なまえの酒嫌いも、なんだか子供っぽい。

「なぁ、なまえ。俺と結婚する気あるか?」

唐突にエスカバと話していたことを思い出した。

「け、結婚?」
「そう結婚」

なんていきなりな…となまえは呟いた。確かにそうだな。夜景の見えるロマンチックな場所でもないし、しかも実家。ましてや指輪までもない。

「…そりゃあ…したい、けど」
「けど?」
「いつも以上に、迷惑、かけると思う…」
「ははっ、迷惑も何も、変わらないさ」

形が無かっただけで、中身は何一つ変わらない。いつも通り生活するだけだ。

「…じゃあ…その…、こ、これからもお願い、してもいいですか?」

照れ屋のなまえは小さく、真っ赤になりながらそう声を絞り出した。

「もちろん」

この先も、ずっとなまえから目を離せない事になりました。


終わり
―――

まえつぎ




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