「おはよ…」
「おはよう…ぇえええ?」
まさに晴天霹靂。
只今六時。なまえがこんなに早起きする訳がない。俺のなまえがこんなに可愛いはずはあるけども、休日の早起きだけは絶対にあり得ない。
何事もないようになまえは洗面所に向かっているが、俺には一大事である。
「なまえ、ちょっと待て」
「んぇ?」
「熱でもあるのか?」
ぴたっと額をくっ付ける。
「あ、あああるわけないよ!」
すぐに額は離されたが、確かに熱はない。そもそも一緒に暮らしはじめて風邪を引いたところは見たことないんだった。馬鹿は風邪を引かない…って言ったら失礼だな。
「も、顔洗ってくる!」
「あ、なまえ…」
もしかして、これが自立ってやつか?もう起こしに行かなくても大丈夫なのか…?
炊飯器の中をかき混ぜながら今日のご飯、赤飯にすればよかったと思った。
「うわぁああああサンダユウちょっときてー!」
ぼきん、という物音の後に聞こえた叫び声。
「はいはい、何事です…か…」
廊下に顔を出すと、呆然と蛇口を持ったなまえが立っていた。
「まさか、それ…」
「おれた…」
折った、の間違いじゃないか。取り合えず急いで修理してくれるところに電話をかけた。なるほど、今日の早起きはこの事件のためにあったのか…。
「ごめん…まさか折れるだなんて思わなかった…」
「わざとじゃないならいいんだ」
少し落ち込んでいるなまえの頭を撫でた。
なまえの力が強いのは知っている。だからわざとじゃないのは薄々勘づいていたが、無意識に蛇口を折る、ってかなりの馬鹿力の持ち主だ。
「なんか俺、嬉しいし」
「なんで?」
蛇口新しく出来るから?そう聞いたなまえに思わず笑ってしまった。
「くくっ…まだまだなまえは面倒みなきゃいけないって分かったからな」
「はぁ?」
つまり、君の世話の世話を焼くのが俺の全てなんです。
赤飯炊かなくてよかった。
おわり
―――
まえ|つぎ