「風呂入れー」
「ん」
「パジャマのボタンの三番目!」
「んー?」
「そろそろ寝るか?」
「ん…」
「お前は母親か!」
携帯から聞こえてくるエスカバの大声にサンダユウは思わず電源を切りそうになった。
気紛れにエスカバからかかってくる電話。大抵なまえが寝て、サンダユウがくつろいでいる時間に来るものだった。どこかで見ているのかと思うほどいいタイミングだ。
「それじゃ恋人としても見られてないんじゃね?」
「な…」
今度こそ電源ボタンを押してやろうかと思ったものの、恋人として見られていないと言われては気になるものがある。
「そ、それってどういう意味で…」
大袈裟に溜め息をついた後、エスカバは呆れたように言った。
「だーかーら、サンダユウはただの世話を焼きの『親』って意味」
「親…。じゃあどうしたら『恋人』になれるんだ?」
「持ちつ持たれつ、世話を焼くのも焼かれるのも平等に」
無言のままサンダユウは口を半開きにしたままぽかんとしていた。暫く沈黙が流れた後、やっと意味を理解し言葉を発した。
「…エスカバがそんなこと言うなんて珍しいな」
「んな…俺だってたまにはアドバイスぐらいくれてやるわボケ!さっと実行してこいよおやすみ!」
ツーツーツーと会話する相手をなくした電話になんで逆ギレされなきゃいけないんだよ、と返事を返した。
「実行してこいったって…なまえはもう寝てるってエスカバくん」
そうは言ったものの、エスカバに言われたことが気になるらしくサンダユウはなまえの寝室に向かった。
ぐっすり寝ているなまえの横に腰掛ける。それから長い前髪をかき分けた。この程度ではもちろん起きない。
(平等に…)
サンダユウはエスカバの言葉を心の中で繰り返した。どうすれば良いのか、さっぱり分からない。
「…サンダユウ…」
なまえの声。驚いたが起こした訳ではなく、ただの寝言だったのでほっとした。それも束の間、自分の名前を寝言でまで呼んでくれているなんて、胸がきゅんと締まった。なんだ、乙女か俺は。
(…ああ、そうだ。俺達は十分平等だよな)
俺は大きすぎる幸福と、溢れるだけの愛情を貰ってるよ。
―――
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