Yamato


「では護巻さん、真帆路さんがディフェンス、大和さんもキーパーお願いします」

ホテルでひと段落する間も無く、歩いて15分程度の借りたサッカーフィールドに集合した。夕食までの時間、獅子島なまえと連携を合わせておけという不動監督の指示でもある。その不動監督本人はフラフラ何処かに行ってしまったのだが。
白竜が指示をし、それぞれ配置についた。腹が立つがレジスタンスジャパンのキャプテンは白竜だった。一年生の癖に生意気だ。許せん。そこでだ、ここで俺様がチームゼロの白竜のシュートを止めて、年上としての威厳を示してやろうと思う。気合いを入れ、グローブを締め直した。

「よし、じゃあやるぞなまえ。ついて来いよ?」
「白竜がついてきなよ」
「ふん、変わらんな。では始めます!」

高らかに声を上げ、向かってくるのは白竜となまえの一年生コンビ。あの護巻と真帆路をそう楽に抜ける訳が無い。ドリブルで上がってくるなまえの前に、護巻が立ちはだかった。なまえが間髪入れずに片脚を強く踏み込むと、足元から突風が巻き起こった。キラキラ光るそれは粉雪混じりの風だ。ボールを巧みにキープしながら護巻と対峙するなまえはくすくすと笑っていて、まるで風と雪と遊んでいるようだった。悔しそうに食いしばった護巻の口の端しから白い息が漏れている。そのままあっさりと白竜にボールは渡り、護巻を抜いた。

(早い……!)

相手に考える隙を与えない判断とそれに伴った動き。これがゴットエデン最強チームとその候補か!
真帆路もディフェンスにはいるが、白竜のドリブルは早い。護巻の足止めを振り切ったなまえもゴール前へ上がってくる。

「白竜!」
「ああ!」

空中へ舞い上がったあの構えはホワイトハリケーンか?いや、違う!下ではなまえの冷気が猛吹雪となって吹き荒れていた。なまえが白竜から渡ったボールを蹴った瞬間、俺は真っ白な空間に放り込まれた。上も下も白く、ただあるのは、猛スピードで迫ってくるボールのみ。距離感が掴めないままズバンッ!と耳の横でゴールネットが揺れる音を聞いた。

「……なんだ今のは……」


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「よし、いいぞ」
「まあまあだね」

白竜との連携はよし。これは白竜が化身に目覚める前に完成させた必殺技「ホワイトアウト」だ。結局ゴットエデンでは化身の力が重要視されたため、白竜のシャイニングドラゴンが発動した後は役に立た無かったが。今回の化身禁止特別ルールによって復活することになった。
いくらあの千宮路大和だろうと、距離感を奪われては止められない。おしゃべりな白竜も内心そう思っているはずだ。
「化身に頼ってばかりではダメだな…」
ぽつりと大和さん…か護巻さんか真帆路さんの呟きが聞こえた。もしくは全員か、心の声なのか。サッカーの才能を示す化身が使えないというルールは少なからず重圧になっている。それは白竜も私も同様。その反面、自分の身ひとつで戦ってきた喜多さんや南沢さんは調子がいい。これからはパワーではなくテクニックが物を言う。レジスタンスジャパンのキャプテンはそれをメンバーに伝えたかったようだ。さては、私を利用したんだな……。

「さあ!まだまだ続けますよ!」

敬語に潜む高圧的な態度、これが白竜流のキャプテンのやり方か。しばらく会っていない間に、キャプテンらしくなったものだ。まるで昔の白咲さんのようで……嫌いじゃない。まあ白竜という時点で好きにもなれないが。さっきまでゴールにあったボールをつま先で弄んでいると、だれかの足が横からボールの上に置かれた。ぱっと顔を上げると護巻さんがにやりとしながら顔を近付けてくる。

「護巻さん?」
「今のは小手調べだ。次からは本気で行くぜ」
「了解しました」

今のは本気ではなかった、のか。
その後、人数を増やしながらミニゲーム制の連携練習は進んだ。護巻さんは宣言通り執拗に私を狙ってきた。人数も増えてしまっては迂闊にバックパスは出せない。しかも、体格もよく、賢い護巻さんを相手に同じ手は通用しない……。抜き方を考えるので精一杯で、シュートまで持ち込むのは一苦労だった。本気を見せるとは、こういうことだったのか。そう……サッカーは、サッカーは!こうでなくては!母校のチームのサッカーが楽しくないとは言わない。だが、自分の持てる力をすべて使い切るサッカーは、たまらないほど興奮した。初めて顔を合わせた面々とも、連携を取るのは苦ではなかったし、むしろ楽しいほどだった。
その時私は、晴れてレジスタンスジャパンの仲間になれた。……んだと思う。


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gomaki


「はー、お前中々やるな」
「いいえ、まだまだですよ」

ほらドリンク、とボトルを投げると喉が渇いていたのか一気に煽った。強さを追い求めるそのストイックさは、白竜とよく似通っていた。しなやかな筋肉に包まれた脚や腕は、男のものとはあきらかに違った瞬発力を見せる。これがなまえの強みらしい。それに、あちこちについた傷跡は毎日のハードな練習の賜物だろうか。女の子らしさをどこかに置いてきてしまった姿、形をしていた。唯一、休憩時間に長い髪をまとめ直す仕草を見ていると、無くした女の子らしさを匂わせる。…白竜とか喜多もよくやるけどな。喜多なんか特に癖毛だしふわふわで後ろ姿なんか……いや、言わないでおこう。とにかくレジスタンスジャパンの紅一点は、とんだジョーカーになってくれそうだ。
なまえが髪を結う慣れた手つきの途中、パツンッと小さな破裂音が聞こえた。髪を結う奴にとっては聞き慣れた音、髪ゴムが切れてしまった音だ。

「あー、切れちゃった……」
「予備は?」
「それが今手持ちがないんです」
「じゃあ俺の予備やるよ。あ、折角だし結んでやろうか?」
「そ、そこまでして頂かなくても!」

首を横に振って断るなまえをいいから!と丸め込んで後ろを向かせた。先輩の特権ってやつはやっぱりいいな。ふふーん、こいつの髪結い易そうだし三つ編みにしてやりたかったんだよなぁ…….。俺様にとっちゃ三つ編みなんて朝飯前なんですよ。ちゃきちゃき結んでいる途中で大和が口を挟んでくる。

「護巻ィ、さりげなく自分とお揃いにしてんじゃねぇよ…」
「羨ましいだろー?可愛いだろー?」
「はぁ?このオトコオンナがかぁ?!可愛くない!ぜんっぜん可愛くないぞ!」
「………。」

オトコオンナ、ねぇ。それはみんな口には出さないけど思ってることだ。それになまえ本人も自分が男に見えることを分かっていて、さして気にしてはいないようだし。でも「可愛くない」これはどうだろう。流石になまえだって……ああ、もう顔が見られないや。休憩後のシュート練習がどうなったかは本当に察して欲しい。あえて言うなら大和が一度鼻血を噴き出したぐらいだ。流石に鼻血を流した時はなまえも反省したようで、普通に止血を行っていたが。

「………なんだ、その、俺が悪かったよ」
「喋らないで下さい大和さん」

大和の青ざめたその顔とは真逆に、とめどなく流れる鼻血は真っ赤だった。

「日本にはこんな言葉があるぞ。自業自得ってな」

この時ばかりは笑わないストライカーは口元が震えていた。



続く



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