※R16ぐらい






首筋に生暖かい息が掛かる。眠りが浅かったのでそんな些細なことでもすぐに目が覚めてしまった。ぼんやりした意識のなか、目だけ動かして下を見ると、茶色いぼさぼさの髪の毛がうざったく動いていて思わず眉間にしわがよってしまう。その途端、彼はその妙に長い舌でべろんべろんと首筋を舐めだした。生暖かいどころじゃなく湿った荒い息を感じる。「…発情期の犬」「犬で結構」残念ながらこの元モヒカンヤローは、人のあちこちを舐めたくるのが好きなとんでもない性癖の持ち主なのだ。それに加えて「甘い」?なにを言っているのだ、悪いが私の体は飴じゃない。

「味覚オンチ」
「かもな」

眠りは浅いのだが睡眠不足だ。体が動いてくれず、押し退ける気も起きなかった。飾り気のないパーカーのジッパーをジジーーッと断りもなく下げられる。シャツは着ていないので下はすぐブラだ。まあ彼も私も十代じゃあないわけで、下着程度では興奮も恥じらいもない。十代のころより肉がついた腹を明王は手のひらで撫で回した。

「俺のプレゼントしたブラ着けようぜ」
「あの面積小さいの意味ないし、透けてるのも意味ない。チョイスがいちいちオッサン」
「ふん、悪かったな」

がぶり。肩に痛みが走った衝撃で震えた。尖った犬歯が突き刺さった。血が出ているかどうか分からない。内出血してるかな。「痛い」と抗議を申し立てたが無視された。今度はまるで猫が交尾するときみたいだ。えーっと、雌猫が入れられるときめっちゃ痛くって逃げようとするから雄猫が首根っこ噛み付いて押さえる…んだっけ。ああ、猫は首だったね。バックでそれだから猫界はなかなか鬼畜だ。そう考えると人間はまだ楽か、と肩口を舐め回す鬼畜明王をぼんやり見ながら思った。なんだが噛み付かれた部分がじりじりする。

(私ってM…んなわけないか。痛いのは痛い)

飽きずに舐め続ける明王に無理矢理キスをした。さんざん私のことを舐めてくれた舌を口に押し戻しながら奥歯から前歯まで、唾液でぬるぬるする口内をかき回す。一応反撃のつもりだ。主導権を握られそうになったが、なんとかしのいだ。しのいだ、って時点でぎりぎりなんだけど。上下の立場的にたくさん唾液を飲み込んでしまった。最近あまり気持ち悪いと思わなくなったのは、彼の教育の賜物だと思う。感謝、はあまりしていないけど。これで明王がいなくなったらただの淫乱だ。
頃合いを見計らって解放してやった。口の周りがでろでろだ。唾液に濡れた唇がランプに反射してなんだかいやらしい。当たり前だが私の肺活量では彼の息切れさせることは出来なかった。寧ろ息切れしているのは私の方だ。酸素が足りなくてふらふらする。

「…ちゅーうまくなったんじゃないの」
「だれの、せい?」
「お、れ」

語尾にハートマークを付けたのを聞いてまた眉間にしわがよった。お返しと言わんばかりにちゅっ、ちゅっ、ちゅっ。とわざとらしいリップ音のキスをされる。口から顎、顎から喉、喉から鎖骨の真ん中。焦らされてる気がしてならない。
ブラの下から左手を差し込んで胸になにをするでもなく、また首筋を舐め始める。彼の舐める行為を犬や猫と形容してきたけど、そんな可愛らしいものではないと思った。立派な冠を乗せ玉座にふんぞり返る王様。その気高いプライドを一皮剥けば、犬よりも猫よりも淫靡なケモノが潜んでいる。腹が死ぬほど減っているのに、獲物をいたぶり続ける様は、質の悪いケモノだ。

「もっとがっついてもいいのに…」

殺すなら、一息に。
ちゅう、と鎖骨に吸い付いていた明王はこちらを見上げた。

「…どれくらい?」

にやーと口元がいやらしくつり上がり、置くだけだった左手がやんわり動き始める。勝利の表情。きっとこれは、痺れを切らした私の負けなのだろうと自分でも分かった。

「どうぞ、お好きなだけ」

喉仏に噛み付かれて、やっと止めをさされた。


120430



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