※夢らしくないです。





「ひ、ひろったんだ」

シュウを抜いたエンシャントダークと、アンリミテッドシャイニングに囲まれた白竜は、2チーム20人の迫力に流石にたじろいでいた。ゴッドエデン内で面白い遊び道具がないので、少しでも興味を引くようなものがあるとすぐに人が集結してしまう。つまり今は白竜の拾ってきたものに興味を示していたのだ。
中身が少々お歳を召しているシュウはその様子を少し離れた位置で楽しそうに眺めつつ、白竜の拾ってきたらしきものに注意を向けた。まるでメンバーから守るように背を丸めた白竜の腕の中には、卵のようなものが大事そうに抱えられている。

「これ卵?」
「さあ…分からんが」
「暖めるのか?」
「一応そうする予定だ」

それぞれの感嘆の声が上がる。見るだけではつまらなくなり、俺にも触らせろとじりじり白竜に迫って行く。白竜自身も大概だが超人的な力を持ったメンバーに、それこそ蛇野や野島のような大男に触らせたらこの卵が割れてしまうかも分からない。指一本触らせるかと威嚇しつつ更に身を固くする白竜。ほのかに温かい卵の中でぐるりと何かが動いたが、壁際に追い込まれた白竜は気が付かなかった。

「ねぇ、何が孵ると思う?」

今にも「かかれ!」と号令が発せられそうな集団にシュウが然り気無いストップを出した。冷静なシュウの態度に20人も流石に大人気なかったかと白竜への圧力を緩める。それから、卵から何が孵るの議論を始めた。
「やっぱり鳥?」「蛇かもしんねぇぜ、ゴッドエデンだしな」「蛇にしては大きいね」「そうなの蛇野さん?」「俺に聞くな」「俺ダチョウだと思う。たしかこのぐらいだった」「ダチョウの卵って割ったら玉子焼き何人前になるんだっけ?」「わかんねーけどでかい」「じゃあ食べてみようよ!」

「…だっ、だれがそんなことさせるか!」

食べる、の一言が白竜にとって一番恐ろしかった。生気を感じるこの卵から命を奪おうなど考えたくもなかったのだ。泣き顔を真っ赤にした白竜は、メンバーを押し分けて外に向かい走り去った。その勢いで室内に風が巻き起こり全員の額が丸出しになる。まさに化身を出して走りそうな勢いだった。風が止んだあと「どうしよ…」と誰ともなく呟いた。冗談で言ったつもりが、本気で卵を孵そうと思っていた白竜にはそう受け取れなかったらしい。泣き顔を見られてしまったプライドが高い彼を慰めるも謝る言葉も見付からない。とにかくアンリミテッドシャイニングのキャプテンは面倒なほどデリケートだった。こんなときはシュウの出番だ。苦笑いを浮かべながら重い腰を上げたエンシャントダークのキャプテンは、対照的に静かに部屋を後にした。
シュウには白竜が行きそうな場所の大体の検討はついていた。チーム・ゼロを組むにあたり、2人の必殺技の練習や化身の合体やら何度も繰り返している。それなのに相手の考えが分からないと言う方がおかしいだろう。獣道を掻き分けて進んだ先にそびえ立つ大樹がある。特に白竜との秘密の場所と決めていないが、他に知ってる人はいない。木陰に立って上を見上げると、立派な枝に明らかに鳥ではない白いものが窺えた。

「いたいた、分かりやすいなぁ」

野生児らしくひょいひょい大樹をよじ登って行く。「白竜」と呼び掛けても体育座りで丸まったまま動かない。どうやら泣いているらしい。卵のことだけではなく、全員の目の前で泣き顔を晒してしまったことが余程響いたようだ。

「大丈夫だよ白竜。みんな本気で食べようなんて思ってない」
「…ああ」

泣いたことに触れないようにしながら話し掛けると、鼻をすすりながら白竜は顔を上げた。その隙間から抱えていたうすい水色の卵が見える。

「綺麗な卵だね」
「そうだろう。俺も最初見付けたときは驚いた。何故こんなに綺麗なものが道端に転がっているんだとな。だが、こいつは間違いなく生きている。俺が孵して育ててやるんだ」
「えーと、そうだな…例えば、毒蛇だったらどうするつもりなの?」
「それならば俺は……」

シュウの経験上こんな卵は見たことも聞いたこともないが、危険ではないかだけが心配だった。白竜はうつむきながら卵をいとおしそうに何度も撫でる。それに連動するように中の生き物が殻をコツンコツンと叩いた。流石に驚いて手を離すが、中の物は動き続けている。ついに殻にひびが入ってきた。

「見ろ!シュウ!」
「えぇ!もう生まれるの?!」

二人がよく相談しないうちに、せっかちな卵は殻を破り始めた。慌てふためいているうちにぱらりと一欠片の殻が剥がれ落ちる。ぴゃーだかびゃーだか擬音に表せない鳴き声を上げて中の生き物が顔を覗かせた。初めて見る光に眩しそうにぱちくり動く目、黒い鱗に覆われた顔。

「なんだコイツは…恐竜?」
「恐竜はもうとっくの昔に全滅してるよ白竜」

妙な興奮を必死に押さえたシュウが白竜の天然のボケにツッコミを入れる。流石に恐竜はない。役目を終えた厚目の殻が全て木の枝から地面に落下にして行く。まるでブランドもののように艶々した黒い鱗。それに覆われた頭から尻尾がしなやかに動く。背中から生えた羽がゆっくりと開き、何度か羽ばたいた。

「ではドラゴンだ」
「ドラゴンだね」
「まさか、存在するのか?」
「君の化身ドラゴンじゃないか」
「化身は化身だ。こいつはナマモノだ」
「ナマモノって…」

恐竜もありえないがドラゴンもありえない。またぴゃーと鳴いた手乗りサイズのドラゴンは白竜の腹に甘えるように頭を擦り付けた。どうやら母親だと勘違いしてるらしい。隣のシュウにもよたよたと近付いていき体を擦り付ける。存在するとかしないとか、どうでもよくなってしまう。ドラゴンイコール恐いものという考えは一瞬で払拭された。この可愛い生き物をどうしたらいいのだろうかと手が宙に浮く。

「は、白竜…」
「ああ…」

白竜は嬉しそうに目を細めて笑った。こうなったらもう捨てるとは言い出せない。ドラゴンの自立基準など分からないが、せめて自然で生き残れるぐらいには育ててやりたかった。つるつるした体を体を二人で撫で回すと嬉しそうに尻尾を振り回し、少し高いキーで鳴く。時折小さな炎を吐き出しながら。

「…とりあえず、火事には気を付けようか」
「躾が必要だな」

やはりドラゴンはドラゴンだ、と少しばかり焦げた前髪を千切った。


120422



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