飛鳥さん。あなたは去年の最低で最高なクリスマスを覚えていますか。わたしはよーく覚えています。あなたは朝は出かけないと無意識に見せかけて、急に行くと言い出して、その次はなぜか発情しましたね。男の人の心理はわかりません。飛鳥に限ったことかもしれないけど…。そのあと、なんとかショッピングに出かけ、おたがいに欲しいものを買って帰ってきて、美味しい夕食を食べているときです。飛鳥は高級そうな小さな箱を机の上に静かに置きました。何がなんだか分からず、首をかしげていると飛鳥は少し頬を赤くして、小さな箱から小さな指輪を取り出しました。そこでやっと意味がわかったのです。なんと、次に飛鳥が伝える言葉も先読みが出来ました。
「結婚しよう」と。
断る理由はなにもありませんでした。ここまでは最高のクリスマスだったでしょう。その幸せな夜に、飛鳥さん。あなたの考えはなぜそのような考えに持っていったのですか。ノーマルではダメだったのですか。あの生クリームは必要でしたか。わたしは、いまだ根に持っています。




…朝だ。毛布から一歩踏み出した時の肌寒さを想像して思わず身震いをした。せっかくのクリスマスで休日なんだからもう少し寝ててもいいよな、と思いつつ湯たんぽ代わりのなまえに腕を伸ばす。だが、いくら探っても柔らかい温もりが見付からない。ぽふぽふと掴むのは布ばかりだ。目を開けた。やっぱりもぬけの殻だった。きっと待ちきれなくて、クリスマスツリーの下にあるプレゼントを開けに行ったのだろう。可愛いやつめ。これじゃ寝ていても意味がない。
どんな顔をしてプレゼントを開けているのだろうとわくわくしながら、リビングの戸を開けた、はいいが。飛び込んできた光景になまえはいない。きらびやかな包みは何一つ開けられることなく、完璧に中味をくるんでいた。それどころか朝一番につけるはずの暖房も静かだった。寒い。とりあえず暖房をつけたが、その後はひたすら自分を落ち着かせるため部屋を行ったり来たり歩き回った。次に家中の扉を開け、戸棚を開け、布団をひっくり返し、洗濯機を開いた。風呂にも、トイレにも、いなかった。大声で呼んでみもした。しかし、返事はない。玄関にはブーツがセットできちんと置いてあった。つまり、自分の意思で家を出ることはないはずだ。
強盗、誘拐、など犯罪めいた言葉ばかりが頭を巡った。もし、本当にそんなことが起こたら…と顔から血の気が引くのが自分でも分かった。とにかく、これだけ家中を探してもいないのだから警察に通報しなければ。寒さと恐怖で震える指先で警察の電話番号を間違えないように一つずつ押してゆく。9、1…最後にもう一回1を打ち終わる寸前、ガサッとクリスマスツリーが揺れた。まさか犯人か!と身構えたのもつかの間、「ドッキリ大成功!」と飛び出した赤い物体は、犯人でもなく、サンタでもなく。

「いやー、いいクリスマスだねぇ」

サンタの服を着こんだ、なまえだった。ニタニタと笑っているところをみる限り、焦っている俺を見て面白がってたに違いない。

「去年の仕返しだからこれで懲りて…」
「……………………こんの」
「ん?」
「馬鹿!」
「ぐえっ!」
「迷惑な通報するところだったぞ!」

抱き締めて、頭にぐりぐり頬擦りをする。怒りと喜びが込み上げて来て訳がわからない。苦しいから離せとじたばた暴れるなまえのおでこに一つキスをしてやった。それでもむすっとした顔は直らないのだから困り者だ。反省の色がうかがえない俺に満足してないらしい。反省する部分は分かるが俺は後悔はしていないのだ。真剣な瞳がこちらを睨み付けてくるので思わず苦笑いがこぼした。それが更に機嫌を損ねたのか、学校の先生よろしく説教が始まった。

「するときは?」
「夜です」
「去年みたいなことは?」
「もうしません」
「生クリームは?」
「使いません」

じゃあよし!ところっと表情を変えるのがまた可愛い。
さっきからなまえの背中を触っているのだが、ブラの留め具が見当たらない。さりげなくそこに手を触れるのが楽しみなんだけどなぁ…と考えたところではっとした。留め具がない。つまり彼女はノーブラなんだ!サンタ服にノーブラは新ジャンルだ!

「ノーブラか!」
「あ、うん。時間なくて」
「お願い、触らせて」
「だからそういうのは無しって!」
「おーねーがーい」

彼女の胸は手のひらからこぼれ落ちる…ほどの大きさではないが。この絶好の機会を逃す馬鹿がどこにいるだろうか?ノーブラの妻が自分の腕の中にいる状態である。格好の獲物だ。押し倒すのは手慣れたもので、あっという間に床とご対面していた。なまえは諦めたのか、無言で俺の顔を見詰めていた。潔い判断を喜び、服の中に手を差し入れた、瞬間。「離婚届け、どこにしまったか覚えてる?」冷めた声で言われて背筋が凍りついた。

「ごめん!悪かった!反省してます!」
「よし、そこに直れ」

土下座でもさせられるのかもしれないから、きちんと正座をした。罵詈雑言を堪える覚悟で息を飲んだが、彼女も目の前に正座した。これは本格的に離婚に持っていかれるのでは…「あのね、実はこの前飛鳥が出掛けてるときすごく気分悪くなって…」んなわけないよな。

「体調大丈夫なのか?」
「うん。まあ最後まで話は聞いてね。それで、病院行ったの」
「病院…」
「産婦人科」
「さん…って、え、え?まさか?」
「そのまさかなんですよ」

驚きのあまり正座したまま、後ろに倒れるはめになった。天井の染み、そんなところにあったのか。いつも床しか見てないから新発見だ。「コントはいいから起きなさい、お父さん」ぐいーっと腕を引っ張られて起き上がった。
…お父さん、か。

「なんかすごいクリスマスプレゼント貰っちゃったな…」
「ふふふふ、黙っておいて正解だったね。ダブルドッキリ大成功!」

終わったことに区切りを置いて、プレゼントの梱包を取りにかかった。こんなに無邪気なのに、本当にとんでもない仕返しをしてくれたものだ。このあと俺も何か仕返しを企てようと思ったが、妊婦には手出し出来ないよなぁ。その他もろもろの邪心を取り払いつつ、俺もプレゼントの包みを開いた。



121225
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いやーまさか一年越しの続きになるとは…雪花菜さん、遅くなって申し訳ないです!
ありがとうございました!来年もよろしくお願いします!






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