今の時代の雷門中で恐れられているものと言えば、一にテストに二に番長、三四がなくて五に風紀委員長。問答無用になぎ払って行く番長と違って、風紀委員長は態度と服装さえちゃんとしていれば怖くない存在で番長の下の地位に甘んじているが、実際は人の皮を被った鬼と表現される程の凶暴且つ非道の人物…らしい。

少し前倉間が話していたことを思い出した。その時はあんまり興味なかったけど、もっと詳しく聞いとくべきだったなぁと今は後悔してる。だって目の前にいるんだよな、その人の皮を被った鬼が。
風紀委員長、と書かれた赤い腕章がやたらと目に付く。もしかして血染めかもしれない。寒気がした。鬼の風紀委員長の目は確実に俺を睨んでいた。遅刻の取り締まりのプリントが貼ってある手持ちのボード。その縁をいかにも不機嫌そうにボールペンでコツコツ叩いた。

「浜野海士、遅刻の言い訳を聞こう」
「な、なんちゅーか、それはですね…」

言い訳するにも緊張してごくりと唾を飲んだ。なんで今日に限って委員長が遅刻の取り締まりをしているんだろう。いつもの普通の風紀委員ならぎりぎり滑り込みでも笑って許してくれるのだが、委員長はそうもいかないらしい。ローファーのつま先がコンクリートの地面を何度か叩いた。ボールペンといい、何かと叩くのが癖のようだ。

「それは?」
「俺釣りが趣味なものでして…朝から、釣りに」

声の音量がだんだん尻窄みになる。まだサッカーの練習と言った方がいい言い訳になったかもと一瞬考えたけど、好きなサッカーで嘘を隠したくなかった。もちろん釣りもサッカーぐらい大事だけど。ちゅーかサッカーサッカーって天馬にやられてんなぁ俺も。風紀委員長はほう、と感嘆のような嘲笑うかのような声を漏らした。

「君はサッカーで事実を隠さないのか?」
「え?」
「よく居たんだ、練習してたとかなんとか言い訳をするやつ。大抵そいつらは嘘をついている。目を見れば分かる。サッカー部員もめっきり減ってその言い訳もあまり聞かなくなったがな」
「そ、そうなんすか…」
「だからと言って許しはせん。遅刻は遅刻だ浜野海士」

わざとらしいため息を吐きながらチェックを入れるべく用紙を捲っていた。現在何個目のチェックか分からないけど5個溜まれば反省文を提出しなければいけないらしい。トホホ。
にしても、話し方はちょっと怖いけど、噂に聞いていたよりも風紀委員長は凶暴でも非道でもない。どちらかと言えば毅然とした態度で凛々しい。きちんと結んだリボンや、長くも短くもない普通のスカート丈からしてただの真面目な生徒だった。
こんなのがどうして人の皮を被った鬼だなんて呼ばれているのか分からない。うーん難しいこと考えるのは苦手だわ。ふと風紀委員長は何かに気付いたようでボールペンを走らすのを止め、俺から見て校門の左側を向いた。ちっと真面目な容姿に似合わない舌打ちをする。

「ああいう風にずる賢いのは嫌いだ」

そう言ってボードを押し付けてきた。なにが?と聞く暇もなく彼女は歩き出した。その行く先を見てみると、いかにも不良っぽい男子生徒が、塀を乗り越えようとしていた。遅刻の罪を逃れようとしている。うん、そりゃずるいわ。俺もそうすりゃよかったかなーと一瞬思ったがその考えは次の瞬間粉砕された。あの不良は自分自身で風紀委員長の人の皮を剥いだんだ。

とりあえず、あまりにも教育上よろしくない映像だったんで割愛します。

「ちゅーか風紀委員長。貴方が一番風紀乱してると思います」
「大丈夫だ。不良成敗も仕事の内だからな。それに掠り傷一つ付けてない」

また人の皮を被った委員長は涼やかにそう言ってみせる。ある意味鬼より怖いかも。たしかに血は流していなかったが、名も無き男子生徒は白目を剥いて気絶している。風紀委員長はまた用紙を捲り、男子生徒にチェックを入れたようだった。



120307
(浜野海士×風紀委員長)



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