サンダユウが居候を始めてから一週間程経った。何故か下手だった箸の扱い方も上手くなったし、八十年前の生活もなかなか板に付いてきた。私が居ない間は専らテレビを観て過ごしているらしく、最近の事件にやたらと詳しかった。そして一番厄介だったのが、

「なまえ、俺これが食べたい」

これだ。
サンダユウから差し出されたメモを受け取った。三分でクッキング出来る、あの素晴らしい料理番組のレシピ。三分と言ってもたまに「ここに一晩漬け込んだものがあります」と、ショートカットして出てくるのだが。全くもって三分じゃない。

「……ミネストローネ?」
「うん。美味しそうだった」

ミネストローネ。今回のメニューには一晩漬け込むなんてショートカット部分は無いようだ。レシピを見る限り出来ない…こともなさそう…なんだけど。微妙な顔をしているとサンダユウがおずおずと言った。

「…無理か?」
「ううん、明日作るから楽しみにしてて」

サンダユウはパアッと顔を輝かせた。そうと決まれば買い物に行かなきゃな…。





「はぁ…」
「どうしたの?ため息なんかついて」
「珠香ちゃーん…私ミネストローネ作れるかな」
「ミネストローネ?なまえちゃん料理上手だもん!大丈夫だよ。迷惑じゃなかったら私も手伝う!」
「ほんと?じゃあ頼んじゃっていいかなー」




そんな感じの会話があり、今日は珠香ちゃんが家にやって来ました。

「サンダユウ、挨拶は?」
「こ、んにちは?」

高い身長は隠れないのに、私の影に隠れるように立った。人見知りにも程があるだろう。後ろでぎちっと捕まれた手が痛い。

「はは…ごめんね、こんなやつで」
「サンダユウくん大型犬みたいで可愛い!」

珠香ちゃんはとびっきりの笑顔でそう言った。そうなんだよ、こいつは『馬鹿な』大型犬なんだよ。

「俺は、犬じゃない!」
「はいはいはい、今からサンダユウお待ちかねのミネストローネ作るんだから、大人しく待ってなさい」

食って掛かりそうなサンダユウを押さえ込んだ。


110524
―――

まえ つぎ




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