「はい喜多海くん」
「ども」

重い思いをさせたお詫びに、湯たんぽに入れたお湯の余りでココアを作った。見かけによらず甘党なので嬉しそうだ。冷たい体に染み渡る、温かい味。ソファに寝ている人を見ながらぼーっとしていた。やっぱり、変な人だ。日に焼けない北国にしては珍しい褐色の肌をしているし。ココア色だな、とか呑気に考えた。

「あ…そういえば俺、薪割りする約束あった」
「うん。どうぞ帰っていいよ。後は私がなんとかする」
「悪いな。何かあったらすぐ電話して」

玄関まで見送ると、愛用の長いマフラーを首に巻いてまだ雪の降る外に歩いて行った。

「さて…」

これから何をしようか。ご飯でも作って夜に備えるか…。ぶつぶつ呟きながら居間へのドアを開けた。

「誰だ!」
「はい?」

部屋の真ん中に立っているのは、さっきまでそこで寝ているはずだった変な人だ。もうすっかり元気になって…なって…、なり過ぎだろ。刃物持ってるし。何だろう、果物ナイフかな。いやいや悠長に考えている場合じゃない。刃物だ、刃物。銃ではないけど何故か両手を挙げていた。

「私が誰かを言う前に、まずズボン履こうか」
「……あっ」

下がパンツのまま刃物を向けられても凄味がなかった。その辺に畳んであったズボンを渡すといそいそと履き始めた。その間にこっそり刃物は私の手の中に隠した。うーん…この人テレビでよく見る馬鹿な銀行強盗のような雰囲気だ。

「お、お前は、誰だ」
「私は白井なまえ。君は?」
「…サンダユウ・ミシマ」
「サンダユウが名前?」

そう聞くと無言でこくりと頷いた。名字と名前が逆ってことは、外国の人なのだろうか。それにしてはどちらも日本じみた響きだ。

「ありがとう。じゃあサンダユウはどこから来たの?」
「…八十年後」
「…救急車呼ぼうか」
やっぱりどこか頭を打ってしまったのだろうか。
「ふん!信じなくて結構だ!じゃあな!」
「え、ちょっと君、そんな薄着でどこに行くつもり…」
「帰るんだ!」

まだ湿っている上着を掴み、玄関に向かうサンダユウをなんとか引き留めた。

「分かった、分かったから落ち着いて。サンダユウの言うこと信じるから」
「…」
「なんとかなるまで、家に居よう?」


110507
―――

まえ つぎ




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