しんしんと降り積もる雪が全ての音を吸収して静かだ。というか田舎で何も無いのだから静かで当たり前である。それにしても、寒い。いくら長い間北国に住んでるとはいえ、冬は寒い。隣で歩いている喜多海くんさえ鼻までマフラーで覆って寒そうだ。

「寒い」
「だな…」
「ボルシチでも作ろうか…ん?」

道に、何か、いや誰か倒れている。

「き、喜多海くん!」
「…人だな」
「いや、もっと焦ろう!大丈夫ですか!」

こんなに寒くて、雪が積もってるのにそこに倒れているなんて死亡フラグも良いとこだ。焦って転びそうになりながらの人の体に触った。暖かい。息もしてる。生きてる。周りの雪もあまり溶けていないし、ここに倒れてからそう時間は経っていないだろう。

「救急車!」
「圏外」
「なんで!」

圏外だなんて、都合が悪すぎる。生憎近くに店は無いし、病院もない。車が通り過ぎる気配もしない。ただ私と喜多海くんの家がある集落までの一本が続いているだけだ。おろおろしていると喜多海くんが倒れている人を担ぎ始めた。

「…俺が背負って歩いて行くから、先になまえは家に帰って暖房つけといて」
「わ、分かった!すぐ戻るから!」

倒れていた人の体格は喜多海くんと同じぐらいだったが、それでも背負って歩くのは大変だろう。早く戻って手伝わなければ。今日はいつもより道が長く感じた。
家に着き、ストーブを点けようとすると、見事に石油切れだった。なんでこんなときに限って…。

「ご、ごめん」
「大丈夫」

石油を補充してから、外に手伝いに行こうとすると、喜多海くんは私の家に到着してしまった。重かっただろうに、申し訳ない。

「あ、ソファに寝かせて」
「ん」
「服濡れてるし脱がせないと、体温奪われるね」

そう思って衣服に手を伸ばしたが、よく見たらこの人、男じゃないか。髪が長かったからさっきまでてっきり女性かと思っていた。ええい、恥じらってる場合じゃない。男だろうが関係無い。今は恐らく生命の危機的なものだろう。

「…なんか変な服だね。制服かな?」
「この辺で、見たことない」

濃い緑色の上着に付いている三つのボタンを外して脱がせた。健康そうな褐色の肌が見える。よかった、中のシャツまでは濡れてないみたいだ。

「というか、薄着!」
「着けてる手袋も防寒用じゃないな…ブーツも雪道用じゃなかった」
「…じゃあなんでこんな寒いところに?」
「考えててもしょうがない。毛布」
「あ、うん」

湯たんぽも用意したほうがいいかな。



110506
―――

まえ つぎ




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