Epilogue

廊下を走る、髪を結んだ少女。廊下をモニターの資料を見詰めたまま歩く、髪を結んだ少年。今そこの曲がり角で彼等の運命が交差しようとしていた。

「わっ!」

中学生以上の体格をしているサンダユウにぶつかった少女はまるで壁にぶつかった時のような衝撃を受けた。後ろ向きに倒れそうになったのをサンダユウは咄嗟に腕を掴んで阻止した。

「大丈夫か?」
「う、うん…」

何が起こったのかとぱちくりとまばたきを繰り返すその瞳の色を、サンダユウはどこかで見たことがあるような気がした。腕を掴んだままじっ、と音がするほど食い入るように見つめていると少女は慌てて手を軽く振り払って一歩引いた。

「あ、ありがとう。あとぶつかっちゃってごめんね。それじゃ急いでるから!」
「あ」

最小限のことを早口で喋りばたばたと走って行ってしまった。また誰かにぶつかるのではないかと後ろ姿を見送ったが、別のところが目に付いた。黒い髪に映える太く白いゴム。あの時のものに良く似ている。しかし八十年も昔の世界に置いて来たのだから今の世界に存在しているとは考えにくい。あるとしても古くなって使い物にならないかもしれない。

(でもあの目…似てたな)

あの人を探すために八十年前の資料がたくさん書かれていたモニターを消した。もうこれは要らない。じわりじわりと心が動く。こんな身近にいるはすがないと思っていた。会えるはずがないと思っていた。

今は追い掛けるのは止めておこう。縁があるのならきっと、また。



111007
まえ つぎ