「…私もサンダユウのこと好きだよ。いってきます」
違う、違うんだ。なまえが考えてるであろうそんな意味の好きじゃない。俺は、なまえのことが大好きなんだ。愛してるんだ。コートを来て出ていくなまえ。熱で霞む後ろ姿。言いたかったのに言えなかった。





持ってきた卵粥を一旦テーブルに置いて、辛そうに眠っているサンダユウを起こした。

「サンダユウ、一回起きて」
「……んん」

寝惚けと熱でいつもよりぽやぽやした表情になっていた。むくりと起き上がったサンダユウの額に手を当てると、さっき貼ったばかりの冷却シートがほんのりと温かい気がする。

「お粥、食べられる?」
「おなかすいた…でものどいたい…」
「ゆっくり食べればいいよ」

食べないと治るものも治らない。卵粥を食べている途中で何度もむせて咳をした。なんだか吐いてしまいそうだ。余りにも辛そうだったので、私が息で冷ましてからサンダユウに食べさせる、どこかの漫画のカップルのお決まりの看病風景になってしまった。ふと「好きだ」と言われたことを思い出した。いやいやいや、私たちはそんな関係ではない。寧ろ親子のような関係なのだ。

「熱計るよ」
「なんだそれは」
「体温計。暫く脇に挟んでないとダメだよ」

未来の体温計はきっと一瞬で計れるのだろうから、そう説明した。もしかして形状も異なるのかもしれない。最近のでも素早く計れるやつがあった気がするけど、どうだったかなぁ…。首からサンダユウの着ている服に手を突っ込んだ。

「ひっ、あ、じぶんでやる…っ」
「そう?挟むのこっちの先の方だからね」

銀色の部分を指差して教えた。あ、もしかして手が冷たかったのかな。それは少し悪いことをした。
熱を計っている間に風邪薬を飲ませてしまおうか。粉と玉どっちがいいかと考えた結果、サンダユウは粉薬はオブラートに包まないと飲めないような感じがするので玉薬に決定した。

「この薬、噛まないで水と一緒に飲み込んで」
「そ、それぐらしっている」
「なんだ」

水が入ったコップを左手、玉薬を右手において、固まった。
もしかして。

「玉薬飲み込めない人?」
「…う」

じゃあ何なら薬が飲めるっていうんだ。液体のあのイチゴ味の甘いやつか。ここまで子供っぽいとは、未来人、しかも軍人が聞いて呆れる。どんな教育を受けて来たんだ。

「べっ、べつに飲み込むのが苦手なだけで…」

ピピピピッ!と体温計が計り終えたことを知らせた。サンダユウは何故かビビってコップの水が溢れて服にかかった。

「あーあー何やってるの…、着替える前に薬飲んで。体温計出して」
「すまん…」

ぎゅっと目を瞑って必死に玉薬を飲み込んだ。そのあとはもちろん盛大にむせる。サンダユウの背中を擦りながらそっと体温計を取り出した。

「38度3分…」

こんなに酷い熱だったなんて。もっと早く気付いてあげていれば良かった。でも後悔している場合ではない。

「汗かいただろうと思って着替え持ってきたの正解だったよ。はいばんざーい」
「あの、だな、裸は…」
「今更なに言ってるの。脱いで」

控え気味だったが、問答無用でばんざいをして脱がせた。よしよし、大人しく言うことを聞いていれば可愛いものを。

「…!」

驚いた。腹筋も凄かったけど、それよりも健康的な肌色に走る、幾筋かの傷痕。近くで見たことが無いので今まで気付かなかった。

「だから、みるなって…」
「…ごめん。見られたくなかったんだね」

汗を拭くための乾いたタオルを差し出した。
「なまえが、怖がると、思ったから…」
「そんなことない」
そうだ、サンダユウは軍人なのだ。戦いもする。怪我もするのだろう。子供っぽくて、軍人らしくないと思っていたが、こんなところで軍人らしいところを見せ付けられるなんて思いもしなかった。

「さ、次ズボンと下着を」
「今度こそあっちむいててくれ」


110727
―――

まえ つぎ




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