2013/03/30

レイ・ルクは生まれた当初、ただのおもちゃに過ぎなかった。父は誕生日に、簡単な命令を聞く小さなロボットをくれた。風邪で寝込んでいた私は、そのロボットをたくさん可愛がった。元気になったあとも、たくさん遊んだ。欠陥だらけのプログラムでも、父さんが一生懸命作ってくれたロボット。研究熱心な父は改良に改良を重ね、だんだんと人に近く、言葉を喋り始めた。それは最初のアンドロイドの傑作、レイ・ルクとなった。彼のプログラムにはおもちゃのころの記憶が刻まれててり、私をしっかり認識していた。パーフェクト・カスケイド誕生の一歩だった。彼の手は冷たく、まるきり人間ではないが、笑いかけると優しく笑った。レイの髪のない頭を撫でながら私は大層笑ったものだ。
レイは友達だった。

あの日、彼女が亡くなるまでは。
彼女は体が弱かったのです。いつなにがあるか分からない体でした。ひとつの風邪が致命的でした。わたし、レイ・ルクは、人間ではりません。ウィルスも持ちません。だからこそ彼女の隣にいられました。それに機械らしくもない幸せを感じていました。
あの時、死というものを理解出来ませんでした。何度もマスターに回答を請いました。彼女はどこにいってしまったのですか。マスターは一度だけ答えました。彼女は消えた。存在そのものがなくなったのだと。その後マスターは寝ることも惜しまず研究に没頭しました。娘に似せたアンドロイドを作ろうと。もしくは娘そのものを作ろうとしていました。ああ、マスター。奥さんを亡くしたあなたは娘だけが生き甲斐でした。いつしかエルドラドの幹部にまで昇格しましたが、それでも娘を作るのを止めようとはしませんでした。パーフェクト・カスケイドは、そのマスターの後ろ姿を眺め続けました。サッカーのプログラムを組み込み、セカンドステージチルドレンと闘いながら。
あるときマスターの目は絶望に満ちました。全く同じ人、同じ記憶を持つ人を作り出すのは不可能。そう結論付けたのです。彼女によく似たアンドロイド、エミ・ウルを最後に、マスターの研究は終わりました。
エミ・ウルを前にしてマスターが涙を溢したとき、どうしたことか、我々も目から水が流れ出ました。

「マスター。私はお嬢様にはなれません。ですが、我々は貴方を。父親だと思っています」


今でもわたしのなかには彼女の記憶があります。アンドロイドの記憶はいつまでも薄れることはありません。ただのおもちゃだったわたしが貴女のいた世界を守れるようになったきっかけを、忘れられるはずがないのです。



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