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虎徹さんは空みたいな人だ。
いつも広い心でみんなの事を見守っているけど、一回雨が降り始めるとなかなか止まない。
でも、止んだら綺麗な虹がかかるそんな澄んだ心で笑いかけてくれる。
それでいて、手を伸ばせば届きそうなのに届かない。
どんなに高く飛んだって、長く手を伸ばしたって届かない。

いつもそうだ。
近くにいるのに、隣りにいるのに、とても遠い。
何を考えているのか大体分かるのに、あたしにはどうしようもできない。

今も、いつもの様に隣りで人気のバラエティー番組を見ながら、焼酎を飲んでいる。これから別れ話をしようとしているあたしの気持ちなんて知らずに…

「まゆ」

「なに?」

「………いや、何でもない」

「ん…」


分かって欲しくない所には敏感で、いざという所は鈍感だ。今日の事もそう…。

「ねぇ…虎徹さん」

「んー?なんだ?」

お酒の所為か、いつもよりほんのり顔が赤く上機嫌だ。
あたしの心情に逆らって、テレビのバラエティー番組では絶えず笑い声が響いている。これから自分が言おうとしている事が怖くて顔を上げられなかった。


「あたし達……
「ごめんな…」

「え?」

ふと、顔を上げるとさっさとは打って変わって今にも泣き出しそうな虎徹さんが一点をぼんやりと見つめていた。

「お前の…まゆの言いたい事は分かる。辛いのも分かる。俺の見えない所で泣いてるのも知ってる。
ごめんな、何もしてやれなくて。ひでぇヤツだよな、俺。
だから、お前が辛くなったんなら終わりにしよう」

「なんでそうやって余裕なふりをするの!!!!」

そんな泣きそうな顔して笑って言わないでよ…
今、自分がどんな顔して物言ってるか知ってるの?


「あたしが何時虎徹さんを"嫌い"だって言ったの?」


思っていた事やら涙やらいろんな物が身体中から一気に溢れ出す。一回流れ出た物は、なかなか止める事ができない。

「あたしは虎徹さんの中で一番になろうなんて思ってないッ!!三番目でいいの!!あたしの事はどうでもいいよ!!
なんであたしを頼ってくれないのッ?何も相談してくれないのッ?

……あたしは虎徹さんの彼女じゃないの?」


沈黙とテレビの声だけが響く部屋の中、口を開いたのは彼だった。

「ごめんな。俺ってサイテーだよな……
こんなにまゆの事悩ませて泣かせて、これからもこうなるって分かってるのに、お前の事手放したくないと思ってる」

ぽつり、ぽつりと話始めた虎徹さんの横顔はいつものヒーローの様に格好いい物ではなかったが、あたしにはそれがとても愛しく思えた。
そして隣りに座り直し、腕を組み彼の手を握る。大きくて、筋張ってて、沢山のものを包んであげられる虎徹さんの手があたしは大好きだ。

「いいよ。あたしの前ではワイルドタイガーじゃなくて、鏑木虎徹で…ちょっとは休憩も必要だよ?」

「ありがと、な…まゆには敵わねぇわ」

そう言いながら、虎徹さんと抱き合うと一緒に泣きながら一緒に笑った。



My HERO


2012/09/24


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