「いらっしゃいませぇ〜」
あたしはあるキャバクラで働くホステスで、稼ぎもまぁまぁいい方だ。
今日も分厚い化粧で塗り固められた絵に描かれた様な笑顔で接客する。まぁ、あたしも同じなんだけど……
「指名入ったよー、3番さんね」
「は〜い」
よいしょと重い腰を持ち上げてお客の所まで出て行った。昨日の親父の愚痴に付き合って飲みに行った所為で二日酔いだ。
そのお客はサラサラの銀色の長い髪を耳に掛け、あたしが来るのを待っていた。
彼がふっと顔をあげると灰色の瞳と目があった。
「俺がお前を指名したんだぁ」
「あなたが?」
「あ"ぁ」
隣りにゆっくりと座ると、営業話始めた。
「日本人……じゃないですよね?」
「イタリア人だぁ」
「そうなんですか!日本語お上手ですね」
「まぁなぁ…オイ!!」
「はい?なんですか?」
いきなりの声にキョトンとした顔で彼の顔を見ると、ニヤリと微笑んだ。
「俺がテメェをナンバーワンにしてやらぁ!!」
「はぁ!?ちょっとッ!!」
それだけ言い残すと彼は去ってしまった。
そしてこの日を境に、あたしの指名率は急激に右肩上がりになり、今月の売上げはついに1位になった。
そして彼…スクアーロさんと言う人は、1週間に1度高額なプレゼントを持って来たが、丁重に断った。
そして今日は彼と初めてのアフターに出かける。
「……よぉ」
「すいません、遅くなってしまって…」
「気にするなぁ」
それだけ言うとスクアーロさんのエスコートで車(高級車)に乗ると、お気に入りの場所に連れて行ってくれると言って走り始めた。
「なぁ」
スクアーロさんはいきなり話を始めたが、耳と頬が少し紅い。
「なんでしょうか?」
「やっぱりなんでもねぇ……」
「??変なスクアーロさん」
車内の会話はこれだけで、あたしもスクアーロさんも黙ったままだった。
海岸に着くと、少し冷たい風からふわりと塩の匂い、水平線の向こうはうっすらと明るくなっていた。
「……お前はその…か、彼氏とかいるの、かぁ?」
車から降りるといきなり話始めた。
「はぁ!?……仕事が仕事なのでいませんけど…」
「お前が好きだぁ……俺の側でずっと笑っててくれねぇかぁ?」
「申し訳ありませんが、スクアーロさんの気持ちには答えられません……」
「んなぁッ!!!!俺はお前をナンバーワンにしただろぉーがぁ!!それに……
「ブランド物のバッグやアクセサリーも買ってやったって言いたいんでしょ?」
「…………」
「そんな事あたしには必要ありません。頼んでません。スクアーロさんが勝手にしただけじゃない……
それにあたしは仕事として、あんたとお酒飲んで、今日は来ただけなの!!」
「…それがお前の本音かぁ?」
「そうよ。それに…あたしの気持ちはお金じゃ買えないよ」
お金では買えない
らしい
それだけ言うと、あたしは海岸とは逆方向に歩き出した。
「う"ぉ"ぉぉぉい!!」
「なんですかー?」
「じゃぁ、友達からでいい!!俺と付き合ってくれねぇかぁー?」
振り向き、スクアーロの所へヒールの足で走って行くと、広い胸板に飛び込んで行った。
「よろこんで!!」
2011/02/07
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