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今日も部活が終わるとマネージャーのまゆ先輩が、笑顔で部員一人ひとりにドリンクを手渡す。

「はい、光!!お疲れ。あとタオルね」

こんだけデカい部活っちゅー事もあってかなりの部員がいるにも関わらず、先輩は嫌な顔をせず進んで何でもやろうとする。それに気も利く。そんな先輩はテニス部の紅一点や。
密かに先輩に憧れ、思いを寄せている部員も少なくはない。
でも、俺はこの事をあまりよく思っとらん。


「おい!まゆ!!なんで財前だけタオルついとんねん!!俺にも渡せや!!」

「謙也さん、喧しいっすわ。……ええやろ別に」

「そうやで、謙也。いくらまゆがお前の幼馴染みで、妹みたいにおもっとっても財前の彼女や」

「うっさいわ!!白石!!まゆは…まゆはなぁ!!!!ちょっと前まで"謙也のお嫁さんになる"ゆーとったんやぁ!!」

「ちょっと!謙也!!それ何時の話よ!?」

「幼稚園の時や」

「……謙也さん、うざいっすわ」

そう。まゆ先輩は俺の彼女で謙也さんの幼馴染みや。何時も五月蠅い番犬(謙也さん)がおった所為で、今まであまり長い事男と付き合った事がないらしい。
しかし、俺の猛アタックのおかげで、ようやくまゆ先輩が俺の彼女になった。
何時も頼りになる先輩はレギュラーからも愛されているため、謙也さん以外は俺と付き合う事を祝福してくれた。
ただ謙也さんも、何かとお節介をしてくれる所を見ると、反対はしていない様だった。


「そうや、財前。明日の部活のあと少し残れるか?」

「はい、大丈夫っすけど」

「ほなよろしくな」


急に部長にそう言われた時は不審に思ったが、何も考えず返事をした。
ただ、その後一緒に帰った時のまゆ先輩の様子がおかしかった事がとても気掛かりだった。
しかし、次の日教室まで行って見ると、普段と変わりなかったためそんな不安は直ぐに消えてしまった。






「まゆ…いじめられとんねん」

部活のあと、部長にそう言われた時は一瞬で頭が真っ白になった。それと同時に、めっちゃショックやった。


「お前がショック受けるんも分かる。でもな、財前………お前の事で言われとるらしいねん」

「……は?」

俺は頭がおかしなったかと思った。原因が俺なら、最初に俺に言うべきやろ?俺の中で、徐々に衝撃が怒りへと変わっていくんが分かった。

「内容までは分からんかったけど、それでまゆがお前に言われへんかったんとちゃうか?」

「俺には納得できません。何で部長には言えて、俺には言えんのか…」

「アホ。まゆの性格よぉ考えてみぃ…アイツが素直に誰か頼って相談するヤツに見えるか?」

「なら、なんで……」

「見てしまったんや…まゆの下駄箱からすんごい数の嫌がらせの紙があるんを」


いくら馬鹿な俺でも分かった。先輩は話をしなかったのもあるが、できなかったと……
一人で悩んで一人で解決しようとしとる事も。
そうだと分かった俺が向う先はひとつやった。


「部長…ありがと、ございます…」

「気ぃ付けて帰れや」

俺は部室を飛び出すと、先に帰っているであろうまゆ先輩の元へ急いだ。




「おい、見たか?」

「あぁ…女のイジメって陰気やんなぁ」

「ほんとやなぁ…やられとんのってどっかのマネやないか?」

俺は頭を鈍器で殴られた様で、嫌な予感しかしなかった。一度そう思ってしまったらいてもたってもいられなくなり、思わず話しとった人の肩を掴んだ。

「今の話、ほんまか!?何処や!!」

「あ、あっちの体育館の方や」

その話を聞くなり、全力で体育館に向った。ただ俺の嫌な予感がハズレである様に願いながら…




「まゆテメェ!!いくら謙也くんの幼馴染みでテニス部に贔屓して貰っとるからって、調子に乗ってんじゃねぇよ」

「そうや!!こいつが光くんのこと好きなんは知っとるやろ!?しかも、前に頼んだ手紙…渡さへんかったんやってなぁ!!」

「そんなに光くんとこいつの仲取り持つん嫌なら、さっさと断れよ!!」


「別にそんな…つもりは」

「ないんなら何でお前が光くんの彼女になっとんや!?あぁ!?」

案の定、予感は的中してしまった。そして、まゆ先輩は屁理屈な言い掛かりをつけられている真っ最中だった。


「何時までだんまりし続けるん?何の言い訳もできんってか?」

「………」

「テメェいい加減に………ッ!!」

パシッ

「先輩方こそ、こんなとこでぐちぐちしとらんと、直接俺んとこ言いに来たらええやないですか」

「ひ…かる?」

「ひっ、光くん!!」

俺はまゆ先輩を殴ろうとしたぶっさい女の手を離すと、今にも泣きそうな先輩を片腕で胸にぎゅっと抱き寄せた。

「だって、その女が調子にのっとんねん…だから」

「そうだよ!前」

「まゆさんは何もしとりません。俺が好きな相手に告白しただけの話や。ただ、俺に用事があるんなら直接言ってくれんと困りますわ…それに、手紙渡すぐらい自分でできるはずやろ?小学生やあるまいし」

「ッ!!行こ!!」

一人がそう言うと、奴等はさっさと去って行った。


「ひ、かる…なん、で?」

「それはこっちの台詞や!!なんでこない大変な事、俺に黙っとったん!?」

「だって…光を」

「俺が何時、まゆ先輩が邪魔やって言いました?そない事一回もゆーた事ありませんけど」

「でも……不安、だったんだもん」

先輩は泣きそうになりながらも、少しずつポツポツと話し始めた。
俺の足手纏いになっとると言われた事。
学校に来るのが辛かった事。
本当は俺に話したかったという事。
俺の知らんいろんな事を話してくれる先輩は初めてだった。俺は相槌を打ちながら、先輩の手を握る事しかできんかった。

「でも…ね。本当に不安なの」

「何がっすか?」

「光はさ、頭もキレるしテニスも上手じゃない。そして優しいし、何でもこなしてしまう。…だから、みんなに好かれてる……」

顔を真っ赤にしながら、涙を堪えながら話すまゆさんは、いつものみんなに頼られるしっかりしたまゆさんやなかった。

「でも、あたしは全部逆だもん……だから光の隣りにいる資格なんて…ッ!!」

そんな先輩は見てられんかった。
だから、隣りに座るまゆ先輩の顔を無理矢理俺の胸に押しつけた。

「そんな事関係ないっすわ。周りが何をしようと俺は俺。俺は有りのままのまゆさんが好きや。それだけじゃダメですか?」

「………あたしは…光の側にいても…いいの?」

「当たり前やないっすか。だから、泣きたい時には泣いてください。俺の胸くらい何時でも貸したります」

すると、まゆさんの両目から一筋の涙が流れ、次々と大粒の涙に変わっていった。


弱いのは俺の前だけで


(たまには頼りない先輩もいいやないですか。いくらまゆさんが年上だからって強がってばかりやないで、俺を頼ってください。その為の彼氏やないですか)

(あ、りがと…ひか、る……)




2012/04/14


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