家に着くと、半分以上落ちた化粧を落とさず、ベットについた。
そこに亮からの電話があった。
「もしも…
「!!まゆか!?!?」
「あたしに決まってるじゃん、あたしのケータイだよ?」
「そうだな…今からお前んとこ行ってもいいか??」
電話ごしの亮にいつもの雰囲気はなかった。
「うん大丈夫だよ」
そうは言ったものの、今の部屋はとても人をあげられる様なものではない。
「じゃ後でな」
「了解」
電話が切られたと同時に片付けを始める。
古い雑誌や部屋中に散らばるティッシュやゴミをまとめる。
そしてあたし決意した。
今日で亮との関係を終わらせる事…
売春をやめる事。
そして亮の前から消える事を……
これ以上亮の未来まで壊す訳にはいかない。
亮には普通の生活をして欲しい。
亮にはあたしみたいな人間と関わって欲しくないから………
しばらくして亮が来た。
「よう…」
「どうしたの??今までこんな事なかったのに…」
「まぁな…気まぐれだ気まぐれ」
その時の二カッと笑った亮の顔が少し寂しく感じた。
「ふぅ〜ん」
「そんな事より早く中入れろよ」
「あ、うん」
そう言って家の中へ通した。
「まゆ…」
「ん??ッ!!!!」
いきなりのキスに驚いた。
「あッ……ふぅ…/////」
いつもの優しい亮ではなく荒々しいそんな亮だった。
「じゃ始めさせて貰うぜ」
そう言ってあたしをベッドに押し倒した。
その後の記憶はほとんど覚えていない。
ただあたしは泣いてばかりで、亮があたしの名前をずっと呼んでいるのが聞こえた。
全てが終わった後、俺は疲れ果てて寝ちまったまゆの髪を撫でる。
「まゆ……」
そっとキスをすると涙が止まらなくなった。
「まゆ、………どこにも行くなッ」
この小さな身体で全てを抱えて、今にも消えちまいそうで、そんなまゆの事がいつの間にか好きになっていた。
そして俺が目を離したら何処かへ行っちまいそうで……
「どこにも行くな………俺の隣に居てくれ…」
ただその言葉だけが俺の頭の中から消えなかった。
あたしはずっと寝たふりをしてた。
ほんとは知ってた…
亮があたしの事を好きで、あたしも亮の事が好きだって…
だから゛隣に居てくれ゛って言われた時、泣きそうな位うれしかった。
でもこのままじゃダメ…
今の中途半端なままのあたしじゃ、いつ亮を傷つけるか分からない。
そんなあたしは亮の隣になんて居られない……
最後の最後に言わせてね…
「亮…大好きだよ……今まで迷惑かけてごめんね。ありがと」
次の日、俺が目を覚ますと、隣には既にまゆの姿がなかった。
慌ててベッドから飛び起き、部屋中を探しているとキッチンからいい匂いが漂ってきた。
「まゆか!?!?」
「あ、おはよう。どうしたの??そんなに慌てて」
そこには朝食を作るまゆの姿があった。
「おはよ…う……いや、隣にいねぇからさ」
「ごめん…早く着替えてきてご飯たべよ??」
「おう」
俺は着替えに行った。
着替えから帰ってくると、既に朝食が用意されていた。
「お前料理できたか??」
「失礼ね!!!!今はまだ修行中だけど、せっかくなら亮に食べて貰おうと思って…」
「!!!!サンキューな」
今思えばおかしかった。
まゆがこんな事をするはずがないと、どうして思わなかったんだ。
「どう??」
「ん〜〜…めっちゃうまいぜ」
「ありがと」
あっという間に楽しい朝食の時間が過ぎていった。
「それじゃ、俺はそろそろ家帰るぜ…飯サンキューな」
「うん、こちらこそ」
「じゃーな…またあとでって、お前今日はサボりか」
「当たり前でしょ??それじゃばいばい」
「おう!!また明日な」
俺は家に帰って学校に行く支度をした。
それが俺がまゆを見た最後だった……
「…………ばいばい……亮」
まゆは次の日になっても、1週間たってももう学校に来る事はなかった。
噂によると家の都合で転校したらしい…
でも誰が何度電話をかけても通じる事はなかった。
最後にあったあの日から1ヶ月経つ。
俺の時間はあの日から止まっちまったみたいに、何もかもできないでいた。
「宍戸さん…大丈夫ですか??」
そんな俺を心配してか、長太郎は暇さえあれば俺の所を訪れていた。
「おう……じゃまたな」
跡部達も何も言わなかった。
家に帰ると、ケータイが鳴った。
「もしもし」
「………」
「…もしもし??」
「ッ…………」
「んだよッ」
「……亮??」
「ッ!!まゆ!?!?」
「久しぶりだね」
「お前ッ今どこにいるんだよ!?!?」
「ごめん…黙っていなくなって」
「………」
「いろいろ訳があって、どこに居るかは言えないんだけど…亮に最後に伝えたくて……
今まであたしの迷惑に付き合ってくれてありがとう…
それじゃ…」
「おいッ待てよ!!俺はまゆの事が
「言わないでッ!!!!」
「ほんとは最後の夜…起きてた。亮の言葉が泣きそうなくらいうれしかった」
「まゆ!?!?お前…」
「でもあたしは亮の側に居るには相応しくないの…散々売春やってきて、そんなままじゃダメなの…だからさようなら」
「ちょッ!!!!まゆ!!!!」
そこで電話は切れた。
「俺はずっとお前を想い続けるぜ……まゆ」
それから1年が経とうとしていた。
あたしは立海大附属高等部の3年生になっていた。
そして男子テニス部マネージャーの1人でもある。
いつか亮にまた会えるかもしれないという期待からかもしれない。
「おーいまゆ〜次行くぜぃ」
「はーい!!待ってみんな」
「ほんとにおっちょこちょいやのぅ」
「そこが可愛いんだよ」
「精市の言うとおりだな」
「ほらッ赤也早くして」
「ちょッまゆセンパイ!!荷物持ってくださいよ〜〜」
「やーだよ!!」
あたしがみんなの所に戻ろうとしたその時…
「待ってくださいよ〜宍戸さーん!!!!」
懐かしい声がした。
「早くしねぇとおいてくぜ」
目の前には、少し大人びた亮の姿があった。
あたしはその横を通った時に囁いた。
「亮………大好きだよ……ずっとずっと」
宍戸が振り返ったその時には、既にまゆの姿はなかった。
「どうかしましたか??」
「なんでもねぇよ…ほら行くぜ」
そして走りながら叫んだ。
「俺は待ってるぜ!!!また戻ってこいよッ」
ありがとうを君に
まゆの瞳からは大粒の涙が流れ落ちた。
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