2日前、任務からザンザスが帰って来た。
長い間本部からの拘束が解かれなかった彼と久しぶりにゆっくりできると思っていたが、運悪く自分の書類整理がかぶってしまった。
彩花が生まれてからは暗殺任務には行かなくなった。(というか行かせてもらえなくなった)
その分、彩花やみんなとゆっくりできる時間が出来たが、少し寂しく感じる。
彩花はもうすぐ3ヶ月になる。やっと首もすわり、体もすくすくと育っている。そしてあたしもザンザスも彩花と一緒に成長した。特にザンザスに至っては、オムツをスムーズに変えられる様になり、泣いた時の対処までもできる様になった。
先ほどもオムツを変えていた時にザンザスは相変わらず仏頂面だったが、彩花は羽根のエクステを握って終始笑顔だった。
普通の子供は泣くだろうが彩花はそんなザンザスが大好きらしく、パパとお揃いの真紅の瞳を輝かせてキャッキャッと笑っていた。その所為かザンザスも笑っている様に見えた。怖い者知らずなのはさすが我が子というべきか。
「まゆ〜、何してんの?」
あたしがトランクを出してくると、調度報告書を出しに来たベルに会った。
「何って……ザンザスの荷物準備始めるの」
「ご苦労様♪ししっ」
「ありがと、よいしょ…」
トランクを持ち上げて移動すると、ベルはドカッとソファに座った。
「まゆさー、最近ボスと一緒にいなくねぇ?」
核心を突かれたあたしは生唾をごくりと飲んだ。
「……そうだね、彩花の面倒とか見なきゃならないし、ボスもあたしもお互いに忙しいからね」
ベルはソファに寝転ぶとオリジナルのナイフの手入れをしながらあたしに問い掛けた。
「ふーん…まゆはそれでいい訳?」
「え?」
何が言いたいのか分からなかった。
あたしは今の生活にある程度満足してるつもりだし、そんな事誰にだって言ってない。
「ベルは……なんでそう思うの?」
「ん?王子の直感ってやつ?なんだけど、なんかまゆ疲れてる気がすんだよねー」
「……そんな……事、ない…よ」
ただそれだけしか言い返せなかった。
だって疲れてるのは事実で、本当はザンザスに触れたいのに触れられなくて、ザンザスに触れたのだってすごく昔の様に感じる。
「王子はさ、まゆには笑顔が一番似合うと思ってる。それに俺と歳、そんなにかわんねぇーのに母親とかすげぇし……だからこんな時位、母親から女になってもいいと思うぜ」
そう言ってベルはあたしを抱き締めてくれた。
ベルの背中はザンザスと全然違って、すごく細いものだったけれど涙が溢れ出した。
「ほんとは…ほんとはあたしだってザンザスに触れたい!!でも彩花がいるから…お母さんになったから我慢しなきゃいけない……分かってるけど………」
「いつもあたしが当たり前だったのに……あの娘に変わっちゃって…彩花が羨ましいの」
あたしはもう何を言っているか分からなくって、頭も顔も言葉さえもぐちゃぐちゃだ。
そんなあたしをベルは泣きやむまで、背中を撫でてくれた。
「ありがとう、ベル」
「ししっ、気にすんな…まゆは王子の妹みたいなもんだしな」
「ちょっと!!あたしの方が年上ですぅー」
「まぁなんかあったら、王子達に言えよ…彩花の面倒位見てやるし、ししっ」
ベルはそれだけ言い残すとナイフで遊びながら部屋を出て行った。
あたしは顔を洗い、気持ちを入れ替えると、また荷物の準備を再開した。
しばらくして、彩花を寝かせたザンザスが戻って来た。
「おかえり」
「あぁ」
そして彼の元に駆け寄ると彩花を渡され、頬にキスをされた。
「もう!!いきなりなに!?!?」
さっき泣いたのがばれてないか、隠すのに必死で彩花を落としそうになった。
「フンッ…後で構ってやる」
「ちょっと!!!!」
どうやらザンザスには全てお見通しの様で、親指でキュッと目を擦られると、あたしの顔がみるみる赤くなっていくのが自分でも分かった。
そしてザンザスが部屋から出て行くと自分の耳に花がある事に気付いた。
その花を見ると自然と涙が流れた。
お母さんのお休み
(ザンザス、あたしも幸せだよ!!)
(あぁ?……なんだよいきなり)
(なんでもなーい♪)
(チッ、彩花は今日ジジィのところにやる)
(え?)
(……お前が女だって事1回も忘れた事ねぇよ)
(お前は一生俺の女だ)
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ボスはまゆちゃんの悩みを言わなくても、お見通しな感じがいい←
2010/11/26
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