「お前とは付き合えねぇ…」
突き刺さった残酷な一言。
ずっとずっと片思いしていたあの人に告白した結果がこれ。
同じ職場にいる事に耐えられず、何も持たずに飛び出して来てしまったが、生憎今日は雨。
仕事を投げ出して来た為、行く当があるはずもなく、ひたすら歌舞伎町を彷徨い歩いていた。
ドサッ
「痛ッ!!」
道のど真ん中で躓いてぬかるんだ地面に両手を付く。
その時、ふと目に入ったあの人と同じ自分の隊服が酷く不快に感じた。同じ服を着ていても埋まらないあの人とあたしの差。
躓いてできた傷よりも、心にある深い傷跡が痛くて、思わず涙が溢れた。
「うっ……!!どう、して…、…だ、め…なのッ!!」
ここが通りだという事さえ忘れて、耐える様に泣き続けた。
「テメェ、こんな所でチンピラ警察が泣いてんじゃねぇ!!…って、まゆか!?」
見上げるとそこには、気怠そうな銀髪が傘をさして立っていた。
「ぎ、銀ちゃ…」
「女の子がこんな雨の日に何してんだよ…」
そう言うとバッと自分の着流しを脱いで肩にかけてくれた。そして、立てるか?と聞きながら差し出した手を見ると、更に涙が溢れ出した。
「ちょッ、おまッ!!俺が泣かせてるみたいじゃねぇかよ。まぁ、こんな所で長話もあれだ…ウチ来いよ」
あたしは銀ちゃんの手をとると、肩を抱えて貰いながら万事屋に向った。
「けえったぞー、神楽ーちょっとバスタオル持って来い」
「嫌アル。何で私がしなきゃダメネ!!……ってまゆ!!どうしたアルか!!何でずぶ濡れネ!?」
「だぁーから早く持って来いって言ってんだろうが!!それから新八ィー、風呂沸かせー」
「わッ!!大丈夫ですか?今、お湯張りますね」
かけて来た神楽ちゃんに頭からバスタオルをかけて貰うと、そのまま頭を拭いてくれた。その優しさにまた目頭が熱くなった。
「ほんとにどうしたアルか?いつものまゆらしくないネ…」
「何でも……ない、よ?大丈夫、だから」
大丈夫なんて嘘。本当は今にも泣き出しそう。でも、こんな事で泣いてるなんて言えない…と思っていると、銀ちゃんが神楽ちゃんと新八くんに買い物に行かせてくれた。
神楽ちゃん達が出て行くとそのまま何も言わずに、何かをする訳でもなく、ずっと側にいてくれた。
お風呂にお湯が溜まると、銀ちゃんの着流しとふわふわなバスタオルを差し出して、入るように言われた。
銀ちゃんの優しさとは裏腹に、あたしの頭は相変わらず"フラれた事"で埋め尽くされていた。
お風呂から上がると、あたしに気付いた銀ちゃんが自分の隣りに座るように言った。外は相変わらず雨が降り続いている。
「あー……なんだ、ちょっとは落ち着いたか?」
「うん…ありがと」
そうは言ったが、まだ頭から完全に離れた訳じゃなかった。
「あんなヤローの事なんてさっさと忘れちまえ!!まゆなら直ぐに彼氏の一人や二人できるだろ?」
そう言いながら、あたしの頭をガシガシと撫でる銀ちゃんの優しさに視界がぼやけた。ふと見上げると机の上にあった湯気が出る湯飲みが見えた。
銀ちゃんにはずっと相談にものって貰ってたし、いつもあたしの事を実の妹の様に接してくれるから全てお見通しのようだった。
銀ちゃんは何でこんなにも優しいのだろうか…むしろ煙たく思ってる真選組隊士のこのあたしを。実の妹ではないあたしを。
涙のダムが崩壊すると同時にあたしの中の何かも弾けた。
「どうして、どうしてこんなに優しくしてくれるの!?どうせ、真選組に借りがあるからでしょ!?」
「ちょッ!!!まゆちゃんッ!?何言ってんの?落ち着けって!!な?」
「落ち着いてるもん!!そんな…そんな優しさならいらない!!みんな一緒だもん!!あたしが真選組の女隊士だから、そうやって変な気を使って差別してッ……みんなあたしなんていらないんだよッ……」
あーあ…最悪だ。銀ちゃんがそんな事でこんなに優しくしてくれる訳ないの分かってるのに、止まらない。銀ちゃんは何も悪くないの分かってるのに。
あたしは銀ちゃんの胸をボカボカ殴りながら喚いた。
「落ち着けって言ってるでしょーが……全く」
そう言って手を片手で掴まれ、ぎゅっと抱き締められた。嫌と言いながらなお暴れるあたしの頭を撫でた。
殴ってもなお優しくしてくれる銀ちゃんに緊張の糸がプツリと切れた。
だんだん落ち着いて来ると銀ちゃんの胸に顔を埋め思いっきり泣き始めた。
「銀さんだってなぁ、誰にでも優しい訳じゃねぇよ。ただ…惚れた女には笑ってて欲しいんだよ」
「え?」
思ってもいなかった事に顔を見上げると、頬を赤らめた銀ちゃんの顔が目に入った。
「ちょッ!!こっち見んな!!」
「それってどういう、こと?」
「あー!!こんな事言うつもりなかったのによー!!あーあ!!!一回しか言わねぇからな…」
「……うん」
「俺はまゆの事がずっと好きだ。周りの奴等からは妹みたいだなんて言われてっけど、女としてお前が好きだ。
……あのヤローの事をすぐに忘れろとは言わねぇから…俺の側で笑っててくれねぇ?」
耳まで真っ赤にしながら好きだと言った銀ちゃんに、あの人とは違う胸の高鳴りがした。
「今、は、まだ何も言えないけど、銀ちゃん、の事…嫌いじゃない、から」
あたしがそう言い終わるとあたしを抱き締める腕の力がほんのり強くなった。
窓からふと見えた外はあたしがここに来た時とは打って変わって、綺麗な晴れ模様が広がっていた。
失恋のちはれ
誰にフラれたのか、御想像にお任せします。(笑)
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