今日も深夜だというのにボスからの命令で任務に出る。だけど文句なんて言える訳がない。
あたしはボスの事が好きだ。もちろんボスも知っている。
だが、ボスの恋人ではない。所謂愛人の一人に過ぎない存在だ。それでも、ボスの事を尊敬し好きな事には変わりない。任務の報告のついでに夜の行いに何回遭遇し、何回付き合わされたか自分でも分からない。今夜もそうだった。泣きはらした重い目を擦りながら、敵の様子を伺った。
「う"ぉ"ぉぉぉい!!敵さんのお出ましだぁぁ!!!!」
そして最悪な事に今日はこのうるさい鮫野郎と一緒だ。
「叫ばなくても分かる…行くぞ」
そう言い放つとあたしは敵陣に乗り込んで行った。
「あぶねぇぞぉぉ!!」
スクアーロも後に続き突入した。
「ひぇ!!た、助けてくれぇッ…俺には妻とまだ小さい子供がいるんだ」
「敵に命乞い?」
「金なら返す!!許してくれ!!!!」
「そんなんなら、始めからあたし等のボスに喧嘩売るなよ……」
バンッ
「うちのボスはアンタみたいに甘くねぇよ」
その男の最後は実に呆気なかった。部屋には火薬の匂いと血の生臭い匂いとが充満していた。
「終わったかぁ?」
一足先に終わったスクアーロが、車で迎えに来ていた。
「見れば分かるだろ」
ドカリと車に乗り込むとスクアーロは車を発進させた。
帰ったらすぐにまたボスの所に報告書出しに行かなきゃな…途中で出て来ちゃったし、多分メイドちゃんとイチャイチャしてるんだろうけど………
でも今日は疲れた。たくさん殺り過ぎた。精神的にやられた。だめだ…泣きそう。
あたしは滅多に流さない涙を必死に堪えて、自分の腕に口を押し付けた。
すると、車が急に止まった。
周りを見渡すと見慣れた景色が広がっており、どうやら帰って来たらしい。
「着いたぞぉ」
スクアーロがドアを開けてくれたので、急いでこの場を立ち去ろうとしたその時、あたしの腕を思いっきり引っ張った。
「痛いッ放してよ!!!!」
そう言ってスクアーロを睨み付けると悲しい顔をしたスクアーロと目が合った。
"そんな目であたしを見ないで…"
そんな事を考えていると、スクアーロに抱き締められた。
「まゆ、お前は女なんだ…無理するな。泣きたい時は泣いちまえ」
見抜かれていた。絶対気付いて欲しくなかった奴に…
「なんだよ…こんな時に優しくするなよ!!いつもみたいに馬鹿にしろよッ!!」
スクアーロの胸板をドンドン叩きながら叫んだ。しかし返ってきたのは以外な言葉だった。
「こんなお前見てそんな事出来る程、俺は馬鹿じゃねぇ」
スクアーロの言葉に自然と涙が出た。
「だいたいスクアーロは誰にでも優し過ぎる……なんであたしにまで優しくするんだよ!!前の任務の時だって、あたし庇って怪我するし、飛んできたボスのグラスも自分から当たりに行くし………ばっかじゃないの、好きなの見え見えだよ」
「なんでスクアーロを好きにならなかったんだよぉ…なんでボスなんだよ。
ボスはあたしじゃダメなのに…ボスの事すっごい好きなのにッ!!どんな仕事だって言われればやってきた、抱かれたくなかった時だってたくさんあった……なのになんであたしじゃダメなの………」
あたしはスクアーロに抱き締められたまま、わんわん泣き続けた。
「俺なら、お前の隣りにずっと居てやれる。ずっと大切にしてやる。
俺はまゆの事好きだ……」
「………あたしはボスの事しか見てないよ」
「知ってらぁ!!お前がクソボスの事しか見てねぇのだって丸分かりだぁ、それでも俺は好きだ」
なんで本当にスクアーロを好きにならなかったんだろう…こんなにも優しく抱き締めてくれるのに。
「ごめん、あたしは……「言うんじゃねぇ、俺が勝手に言った事だぁ、でもな」
そう言ったスクアーロはさっきの様な悲しい顔ではなかった。
「絶対お前を振り向かせて見せるぞぉ!!覚えとけよまゆ!!」
「うん、分かった」
そう言って腕をスクアーロの背中に回した。
俺のものまであと数センチ
(泣きたい時は俺のとこに来いよぉ!!)
(調子のるな、うるさい)
(仕事モードに戻ってやがる!!)
(簡単に落とせると思うなよッ)
その後まゆはボスの愛人ではなくなった。
2010/11/13
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