あたしがこの世の中から消えちゃっても誰かが悲しむ事なんてない。
小さい頃からずっとそう思ってた。
"あんたさえッ…あんたさえ生まれて来なければッ!!!!"
「おい、聞いてんのか」
いけない…今会議中だった。何て事思い出してるんだろう。
「あ、ごめん…考え事してて」
カスめ、と暴言を吐きながらいつもの様に足をデスクの上に乗せた。
「で、何の話だっけ?」
「う゛ぉい…まさか最初から聞いてなかったのかよぉ」
書類をまとめ始めたスクアーロは動きを止めてしまった。
「違うよ、さすがにそれはない。敵の数が半端じゃないってとこは聞いてたけど…」
「まゆダメじゃん、肝心なとこ聞いてねぇし、ししっ」
あたしの頭の上に乗っかるとぽかぽかと叩いた。
「うるさいなぁ…で何が肝心なのよ?」
「モスカが全滅しやがった」
先程まで瞳を閉じていたボスが口を開いた。
「え?」
「偵察に行かせキングたモスカが全滅して帰って来たってさ」
「しかも、刃物や銃で撃たれたんじゃねぇぞぉ」
「……溶かされてやがった」
ボスは瞳を見開くと邪魔だと言わんばかりにベルを睨みつけ、ベルはしぶしぶあたしの上から退いた。
「どういう事?」
「死ぬ気の炎じゃねぇ何らかのものに溶かされちまったんだぁ」
そう言い残すとスクアーロはベルを連れてボスの部屋を後にした。
「今回は危険だ」
「分かってるよ」
「……死ぬんじゃねぇぞ」
「多分ね…じゃ行くね」
「……オイ」
部屋を出て行こうとしたらボスに腕を掴まれた。
「何?」
「………死ぬんじゃねぇぞ……」
その声は消えてしまいそうなほど、小さかった。
「うん、ありがと。それじゃ行ってきます」
そう言うとキスされた。いつもとは全く違う触れるだけの優しいキス……
あたしはスクアーロ達と共に敵アジトに向かった。
いつもの様に、すぐに終わらせてみんなと買い物に行くつもりだったのに…………
「まゆッまゆ!!死ぬなよッ!!」
いつも冷静なベルがなんでこんなに慌ててるの?
あ…あたしやられちゃったんだ。
「べ…ル……、なか……な…で…」
「まゆッ!!もうすぐ治療班が来るからなぁぁぁ!!」
そんなのと言いかけたが、言葉を発する事をやめた。どうせあたしが居なくなっても何も変わらない…いつもと同じ時間が流れる。
「…………ボス」
どうやらあたしなんかのために、ボスまでもがこの場にいるらしい。
「……何してんだよ」
「へへ……やっ…ちゃった…」
「カスが」
言っている事はいつもと変わらないが、弱い声に少し申し訳なくなった。
「ボ、ス…あ…たし……ね…」
「まゆ、好きだ……」
突然の事にびっくりして声が出なかった。
「だから、死ぬな……俺を一人にするな」
そっと握られた右手はボスの手によって暖かくなった。
もうあたしは大好きなボスと話もできないらしい…
"大丈夫、ボスは一人じゃないよ、みんないるもん"
「いつかてめぇが"自分が死んでも何も変わらねぇ、悲しまねぇ"って、言ったな」
"うん"
「俺はどうなる?」
"え?"
ボスの顔を見上げてみると見た事のない泣きそうな顔をしていた。
その顔を見た瞬間、あたしの目からも涙が流れ落ちた。
"ボスはあたしの事必要としてくれたんだね"
「まゆ」
ボスはあたしの身体を優しく抱き抱え、優しい口付けをした。
"ごめんね…ボス…………あたしもうダメみたい。"
ザンザスの手を握ったまゆの手は、だんだんと弱弱しくなって言った。
「まゆ、愛してる…」
「ボ…ス、あた、し…も、あ、いして……る」
ボスは強く、でも優しくあたしをぎゅっと抱き締めた。
不器用なわたし達
その後、一人の少女は大好きなボスの腕の中で息を引き取った。
(最後にしか"大好き"って言えなくてごめんね)
(もっと早く伝えるべきだった…)
2010/07/08 |