泣き叫ぶのは性に合わない。非現実を語るのは性に合わない。
 現実を受け止めて笑顔で歩いてくの。

 その張り詰めた糸が、切れるまで…





世界を止めて





 告白します。ロックオン・ストラトス…改めニール・ディランディは、私の兄でした。強い人でした。優しい人でした。故に兄様は散りました。両親と妹の仇を討ち、私と双子の弟の生きる世界がよいものとなることを願って…。

 兄様は素晴らしい人でした。とてもよくできた人でした。兄様は感情を面に出そうとしない私の心を、いつでも分かってくれました。兄様のおかげで私は心に余裕を保って過ごすことができていました。

 でも兄様がいなくなった今……私は、私の心は、何を拠り所とすればいいのでしょう…?


「First name…大丈夫か?」

「刹那…はい、大丈夫です。私がいつまでも泣いていては、兄様も浮かばれませんから」


 感情は押し殺した。あの日、絶望と残酷さを知った日、もう泣かないと決めたから。たったひとりの妹のため、大切な父様と母様のため。私のこれからは仇討ちに使うんだって決めたから。




 あれから4年の月日が経った。私も4つ年を取ったけど、兄様はずっとずっと永遠に25歳のまま。

 この4年間、私はソレスタルビーイングにいた。他に行く宛がなかったと言えばそうだけど…ここに残った一番の理由は

『まだ仇討ちをしていないから』

 それだけ。

 彼の男、アリー・アル・サーシェス、ヤツはこともあろうに生き長らえていた。ヤツは両親と妹の仇から、兄様の仇ともなった。憎んでも憎みきれない、怨んでも怨み足りない。今の私は、アリー・アル・サーシェスへの復讐のために生きているようなもの、だった。

それは悲しい事だ。

 そう言ってくれる兄様はもういないから、私はこのまま生きるより他なかった。心の拠り所がなくて無性に泣きたくて苦しくなって…でもこの状態が4年も続いた。4年も続いてしまったから、私はもう慣れてしまった、のだと思う。戦場では背中を預けられるのに、頼ることが、できなく、なってしまった。


 そんな折り。もうどうしようもなく押し潰されてしまいそうになってたその時。私のもう一人の兄様…ライル・ディランディは、現れました。

 ニール兄様に似た容姿。生き別れたあの日よりも確実に大人びている印象。懐かしさと嬉しさが込み上げて、でもそれよりも先に悲しさが襲った。改めて思い知らされる。ニール兄様はもう…いないのだと。

 ライル兄様のことももちろん好き。けれど、あの運命の日からずっと、私を支えてくれていたのは…ニール兄様だったから。ニール兄様はライル兄様とちょこちょこ会ってたみたいだったけれど、どんなに頼み込んでも私を連れていってくれることはなかったし、どこにいるのかも教えてはくれなかったから、私はあの日以来ライル兄様と一切の接触もしていなかった。今思えば、ニール兄様のその選択は正しかったことなのかもしれないけれど。


 それでもライル兄様は私のもうたった一人の肉親で家族で、兄様で。ニール兄様と復讐が私の全てだったあの4年前以前とは違う。今度の私の全ては、ライル兄様と復讐になってしまって。ライル兄様に不満も不安もあるわけではないのだけれど、だけれども、私はライル兄様を見てはニール兄様の面影をどうしても重ねてしまうのだわ。

 ニール兄様は私を見て妹を思い出しはしたけれど、決して私と妹を同一視したりはしなかった。私を私と見てくれた。でも私はどうしても、ライル兄様にニール兄様を求めてしまう。もちろん兄様たちは双子なのだから、似ているところは数えきれないほどある。ニール兄様は私の昔から変わらない癖や仕草を見て、懐かしそうに目を細めていた。私と妹も双子だったのだから、似ているところはやっぱり数えきれないほどある。私は私を見ながら妹を思い出すニール兄様を見て、心が痛んだりはしなかった。だってニール兄様が私を私と見てくれていることを、十分に知っていたから。


 でも私は。今の私は。ライル兄様にニール兄様を求めている。ライル兄様とニール兄様の違いを見るたびに、なぜだかは分からないがライル兄様にはとても失礼なことに、胸が、ちくちく痛む。なぜライル兄様はニール兄様ではないの、そう、考えてしまう。

 私は嫌な子だわ、と、つくづく思う。ライル兄様は昔からニール兄様と比べられることが本当に大嫌いだったのに。それは今となっては私が一番によく理解しているだろうに。それなのに私はライル兄様がニール兄様ではないことに、いちいち絶望するの。

 ごめんなさい、兄様。私は酷い子で、それなのにこんな自分を押さえることも出来ない弱い子で。それでも兄様はニール兄様となにも劣りもせず私のことを気にかけてくれる。

 ああ、ああ私は。一体、どうすればいい子になれるというのだろう。一体、兄様は私に何を望んでいるのだろう。いや、兄様は私に何も望んではいない。ただ、兄様に何かを望みすぎているのは私の方なんだ。

 兄様は純粋に、たった一人の肉親として私を愛してくれている。なぜ私にはそれができないんだろう。なぜ私はいつまでもいつまでもニール兄様を思ってばかりで、ライル兄様を見ることができないんだろう。どうして、ライル兄様に、依存、できないんだろう。いや、ある意味ではしてるの、かも。


 そう、私は私にも何を望んでいるのかが、分からなくなってしまったのね。







ニール追悼にしたかったけどだいぶ前に挫折

110815