地上で他宗教同士が争いを続けているのにも関わらず、天界では渦中の者らはとても仲良く穏やかに過ごしている。


「シュールですね、そう考えると」

「うん、私はキリスト教の天使で君はギリシア神話の神様だものね」

「はい、まあ私のとこは下の争いとはあまり関係はないんですけど…でも人間から見るとシュールなんでしょうね、この場面は」


 一緒にお茶をしながらなんとも呑気な会話を交わしている彼は、キリスト教の天使でミカエルさんという。大天使で天使長でもあるミカエルさんとは、甥のアレスの子・エロスに紹介されてから仲良くさせてもらっていて、今ではいいお友達関係を築いている。


「それに、弟のゼウスや姪のアテナたちとは違って、私はあまりポピュラーな神ではないですしね。昔は一番大事にされてた時期なんかもありましたけど、今では忘れ去られていますよ」


 まあ仕方ないんですけどね、だって今はガスやら電気やらが発達していて炉なんか使わないし、熟年離婚とやらも流行っているようですから。

 私はヘスティアと呼ばれている女神で、炉を司る家庭生活の守護神です。その昔は凄く崇められていたんですけどね、いつのまにか気が付いたら影薄な感じになっていましたよ。本当は…様々な特権も持ってる凄い神のはずなんだけどなあ…。


「知っていますかミカエルさん。私、すべての神殿で他の神々と栄誉をわかつことができるんですよ。それって言うなれば、仏壇に十字架を飾ることと同等なんです」

「知ってますよ、何度も聞きましたから」


 あああと、一応オリュンポス十二神の一柱でしたよ。なぜ一応かって?可愛い甥っ子のディオニュソスが十二神に入れなかったってへこんでたから譲ったんですよ、私どうせ忘れられてますしね。


「泣きたいですよねー。世知辛い世の中になったものですよ。色々なものが豊かにはなりましたが、人の心は貧しくなってしまったということでしょうね」


 そう溜息を吐いて愚痴を零す彼女を、そっと盗み見る。憂いを帯びた御顔はとても美しく、正しく女神であると言えるだろう。ギリシア神話の神々は総じて美しいと感じるが、中でも彼女は群を抜いて美しいと思う。そんな彼女に私はひそかに恋をしているのだけれど、この恋は報われることなく終わっていくのが最初から決まっていた。

 炉の女神ヘスティアは、処女神である。

 結婚の喜びと引き換えに得た特権で人間たちに様々な恩恵を与えたのだけれど、その美しい容姿から弟や甥に求婚を受けてる。勿論それらを拒み純潔を貫いている彼女は、現在までもずっとその弟と甥には冷たくあたっている。私はそんなことになってしまったらとてもじゃないけど堪えられないので、この気持ちは胸の中にしまっておくより他はないのだ。だって絶対に受け入れてはもらえないのだもの。


「どう思います、ミカエルさん」







聖☆おにいさん×ギリシア神話をやってみたかった

110815