「こんにちは、幸村さん。報告に参りました」

「ああ、みょうじさん……どうだったの、かな?」

 緊張して強ばった表情で、恐る恐るといった風に聞かれる。まだ何も言ってないのに、その顔色は蒼白に近い。おいおい、病気だって聞いてっけど…まじ大丈夫か?今にも死んじまいそうな顔してっぞ…。これから報告することで病状が悪化しなければいいと思いながら、備え付けのパイプ椅子に腰掛ける。まあそういう病気じゃないみてーだけどさ。

 話をするためにすっと息を吸い込むと、依頼人の体がビクリと揺れる。心なしかさっきより血色が悪いような……死ぬなよ?


「まず、今日は転入初日ということで、テニス部の加害者側には無理に近づかず、客観的な目から見た状況分析を行いました」


 クラス内及び校内の被害者に対する態度・仕打ち、加害者の考えなどを、事細かに話していく。と、どんどん悪くなる顔色にこっちも気が気じゃ無くなる。倒れるんじゃないだろうな…やめてくれよ…死ぬなよまじで。こんなでこれじゃ、テニス部に潜入した時の報告では真面目に死ぬんじゃないだろうか。そんくらい目に見えるほどに生気がない。依頼引き受けてからの死人は出したことないってのが売りなんだからやめてくれ。

 とまあ、冗談はこんくらいにして、いよいよ肝心なとこを話す。頼む死ぬな。


「今回切原さんは安城姫華を犯し、性的虐待を働いたという名目で虐めを受けているということですが、幸村さんが部員の方から伺ったことと相違はありませんね?」

「…うん。確かに真田…副部長はそう言っていた」

「そして幸村さんは、事が発覚してから切原さんと直接話は交わしていない。ですがその話を信じられなくて今回の依頼に踏み切った、そうですね?」

「ああ、そうだよ。…どうかしたかい?」


 話を確かめたのは矛盾点がないか。経緯を確かめたのにはさして意味はない。問題はその先だ。


「いえ、特には。…ただ、覚悟の程を確かめておきたくて。いくら直接関わらないといっても、相手は好いた男を振られたからといった理由だけで殺そうとする人です。事が進み万が一幸村さんが依頼したと露見した場合、加害してこないとも限りませんので」


 そう告げると、青白かった肌が徐々に正常に戻っていった。まあ、元々肌は白いから赤みとかはささないけどさ。少なくとも今すぐにでも死にそうって顔じゃあない。よかった、これで死んだらある意味私が殺したようなもんだかんな…。それにしても、何でいきなり生き返ったんだか。

 依頼人が何かを話しだす雰囲気を纏っているのを悟って、聞く態勢に入る。その瞳から、微かに交じっていた迷いはもう見受けられなかった。ふぅん、見かけによらず結構強いんだ。同じ部長でも色々あんだな、と場違いなことを感じた。だって今までの部長って奴はクズだったからさ、仕方ねぇよな。


「…正直始めは信じられなかった、どちらのこともね。赤也はそんなことをする子じゃないし、真田たちだって嘘を吐いたり、大勢でよってたかって一人を虐めたりはしない。けれど彼女は…安城さんに関しては、俺は何も知らないんだ。だから今回の出来事は、俺には“よく知らないマネージャーが俺の可愛い後輩に犯されたと言って、俺の信頼している仲間がそれを鵜呑みにして暴力を振るった”としか受け取れなかったんだ」


 こういう強い瞳は嫌いじゃない。賢い奴も嫌いじゃない。仲間を信じる奴は好きだ。見た目に反して案外芯のある奴だったんだな…。久し振りのこうようかんに、ニッと口端が上がる。なかなかどうして楽しませてくれそうじゃねーの。退屈しないで済むってもんよ。


「そうでしたか。…これは、きちんと裏付けがとれてからお話しようと思っていたのですが」


 覚悟の程も受け取ったっつーわけで、こっちもまあ少し踏み入った話をしようと思う。依頼人病気だし、肝心なときに話せなかったら意味ないしな。ビジネスモードに切り換えると依頼人が一層身構えるのが分かった。いやだから、こんなことで無駄に神経使うとアレだぞ、死ぬぞ。冗談抜きで。

「基本私は依頼人側…つまり今回で言う加害者側ですね、そちらに味方することになります。証拠を掴み疑いを晴らすことを目的として依頼してくる方が大半ですが、内容には勿論、仕置きも含まれています。…分かりますか、暴かれた被害者側、つまりは真の加害者側に制裁を加えるんです」


 ごくり、と唾が喉を通る音がする。この話をする時は大体こんな、張り詰めた緊迫感のある雰囲気になるよな。ま、最大重要ポイントだし?私に依頼するんだからそういうことなんだろーけどさ。


「確認したいのはその範囲についてです。今切原さんを虐めているのは、そうですね、全校生徒といっても過言はないでしょう。その方たち全てに制裁を加えるか、それとも中心となって虐めているテニス部レギュラーの方…こちらはまだ未接触ですので分かりませんが、加害していない方がいればそれ以外に制裁を加えるか。制裁の方法、程度、条件なども自由にお選びいただけます。なお嵌めた張本人 安城姫華につきましては、依頼人側がいくら否と言おうともこちらできちんと然るべき処理をいたしますので悪しからず御了承ください」


 やーだな、また顔面蒼白じゃんよ。そんなにそんなになるような話か?こうなるからこの話は終盤の、もう憔悴してノイローゼ気味になってる時に話したほうがいいんだよなあ。そっちのが迷いとか容赦とかなく判断できるみたいだし?そっちのがこっちも楽だし。

 視線で答えを促すと、真っ青な顔のまま依頼人は口を開いた。レバー食えよ。


「…それは、赤也に任せるよ。俺としては部員にも皆にも、ちゃんと罪を悔い改めるって意味でみょうじさんに制裁を頼みたいけど、実際に被害を受けてるのは赤也だからね…。赤也がどう言うかは分からないけど、人の道に背いたりするようなこと以外はその通りにしてやってくれないかな」


 …ふーん。まあ今回のは大分珍しいケースだから、こういうのもアリか。大体依頼してくるのは、状況分かった上で真の被害者に近い存在だもんな。うんまあ、アリか。


「ではこの件に関しては、切原さんに一任するということでよろしいですね?」

「はい、お願いします」


 過去には真面目に皆殺しだとか生き地獄だとかあったけど、言うのはやめとこう。依頼人ガチで死ぬかもしんねーかんな。





罪深きには相応の罰を





 例えば存在を消してしまうとか。もしかしたらそもそもここには存在しないものかもしれないしな。戸籍がないならそっちにもなくなってもらわねーとさ。ああ、お代は結構。加害者からがっぽりせしめますんでね。







一風変わった復讐夢が書いてみたかったんですけどね。

140505