「別れよ」


 一生分のごめんなさいを捧げるから。





嘘吐きの最後の嫌い





「…は?」


 間抜けな顔で聞き返される。ごめんね。ごめんね、隼人。


「聞こえなかった?別れて」


 好きよ、大好き。だけど、もうダメなの。


「な、んで、だよ」

「なんでも、よ」

「俺が、悪いのか…?」


 それは違う、調子に乗りすぎた私が悪いの。貴方は何も、悪くないの。


「じゃあなんで…!」


 ごめんね、隼人。ごめんねしか言えなくて、ごめんね…


「俺がなんかしちまったんなら、謝るから…」


 お願い、その先を言わないで。私は貴方に酷いことしてるの。なのに、私なんて求めないで…


「だから、別れるとか言わないでくれよ!」


 ごめんなさい。赦さなくていいから、ごめんなさい。


「…それは出来ないわ、隼人」


 傷つけて、ごめんなさい。


「隼人は悪くないのよ?私ね、貴方の事、」

「ッ、」

「もう好きじゃないの」


 胸が痛い。涙は流さない。バレちゃいけないから。

 でも…ね、


「隼人の事、愛して、る、よ」

「ッ、なら何でだよ!」

「だから、なんでもだってば。…それで、別れてくれるの?」


 ああ、そんな泣きそうな顔しないで。別れると一言言ってくれれば、貴方は死なずにすむのだから。

 なのに言葉は残酷ね。


「俺は、」


 どうしよう。貴方を殺したくないのに。


「別れない」


 …私が、死のうか。それもダメね、きっと始末されてしまう。

 ああ、私が隼人に何の感情も持っていなければ、この手にかける事が出来るたのに。ホント、残酷…ね。


「隼人、」


 好き…大好きなの、愛してるの。これ以上ないくらい、これ以上好きにはなれないくらいに。


「貴方の事、愛してるわ」


 愛してる、愛してるから。


「だから、私と別れてください」



 そこまで言えば隼人も気付いたらしくて、顔が真っ青になっていた。その隙に私はその空間から逃げ出す。


 隼人、隼人、今度私たちが逢う場所は戦場でしょう。その時は迷わず、私を殺してください。貴方を利用した最悪な女だと罵って果てさせて。貴方の手討ちにかかれるのならば、それは願ってもない幸せだから。


 隼人、私は生涯貴方だけを好いて愛するわ。どうか貴方は私のことを恨んで、恨んで、その怒りの内に忘れないでください。怒りと共に私を思い出してくれるのなら、それだけで構わないから。


 涙することさえ、死することさえ、私には赦されぬから。







070915
140311 移動