※偽雲雀注意報





「なんで…?」

「…申し訳ありません」

「どうしてなまえが死ななければならなかったの?」

「申し訳ありません」

「返して、なまえを返してッ!!」

「母さん、落ち着くんだ。雲雀くんを責めたって、どうにもならない。そんなことをしても、なまえは返ってこないんだ」

「ッ…申し訳ありません…!」

「申し訳ないで済んだら、この世に警察なんて必要ないのよ!」

「止めなさい、母さん!」

「この…」


“この、 人殺し ―――”





昨日の夜、悲しい哀しい出来事がありました。





 僕の不注意、だった。目を離した隙にそれは始まり、そして終わってしまっていた。ほんの0.1(コンマ1秒)余りの間に、僕がこの世界中で一番大切にしているものが、消えてしまった。僕の光が、宝物が、僕の命そのものが。…消えてしまった。


“射殺”


 僕の大嫌いな言葉。あの沢田綱吉だってこれで命を落としたし、なにより銃なんかで殺しても面白くもなんともない。だから、嫌いだ。

 それに、銃は僕の気に入ったものを一瞬で根こそぎ奪っていく。だから、大嫌いだ。


返して

 そう、なまえの母親は声高に叫んだ。泣きながら、髪を振り乱して。その時の僕を見つめる瞳は、僕が初めて人を殺した時に見つめていた、なまえの瞳を思い出した。



『人を…殺したの…!?』


 血まみれで帰った僕は、明らかに人殺しの目をしていた、らしい。なまえはそんな目をした僕を呆然と見つめて、


『恭弥…っ』


 僕を叩はたこうと手を振り上げ寸でのところで止め、


『っ…』


 力なく下ろした。

 その目には涙があふれんばかりに溜まっていて、それは怒りの涙ではなく、同情によく似た母のような慈愛の涙だった。


『なんで、殺しちゃったのよ…人を殺して、一番辛いの、恭弥じゃない…!』


 そう言って、泣きながら僕の頭を抱き締めた。その一言でボロボロだった僕の心は癒された。

 人を傷つけることには何も感情を持たなかったのに、人を殺した途端にわきあがる吐気。僕がその人のこれからの人生のすべてを、なにもかもを、奪ったんだ。…そう、思った。

 それらのすべてが許されたわけじゃないけど、なまえのおかげで僕は救われた。僕が人を殺したことと、殺したことを悔やんでる僕のために流した涙は、何よりもあたたかかったから。


 ねぇなまえ、なんで今いないの?僕が君を求めてるのに、なんで今傍にいてくれないの?なんで隣りにいないの?なんで僕を抱き締めてくれないの?

 ―――なんで、死んでしまったの?





昨日の夜、悲しい哀しい出来事がありました。





もう取り返しはつかないので僕も一緒に眠ります。

お休みなさい。







10年後とか

080605
140311 移動