※微暴力表現あり





 さして広くなく、かといって狭くもない、運動部の部室にしては綺麗な小屋で、その行為は行われていた。その小屋の用途には到底似つかわしくない、激しい打倒音とそれに伴う汚い罵声、耳を塞ぎたくなる辛苦の悲鳴と呻き声。何が面白いのか、いつまで経っても止む気配はない。

 さて、と小屋の前で目を瞑りながら一部始終を聞いていた女が呟いた。女にはこれといって特筆するような表情は見受けられないが、中の行為を楽しんでいるような様子もまた、見受けられなかった。


「さて…と、じゃあま、お仕事といきますか」


 ドアノブに手を掛け、軽く力をいれて捻るように押すと、バキャッという破壊音と共に戸が強引に壊され、自らが破壊した戸であったものを邪魔そうに見やり少し思案したあと、ゴミのようにぽいっと外に投げ捨てた。ぐるりと中を見回し、ターゲットたちの驚いたような不振な顔を見て、心底満足したようにニヤリと笑う。掴みは上々。

 女は救世主であり断罪者であり被害者であり加害者であり第三者である。容赦や情け等という女曰く甘っちょろい言葉が大嫌いで、目には目を、歯には歯を、復讐には復讐を、をモットーとした、敵とみなしたものには一切の手加減をしない、俗に言う“絶対に敵に回したくない存在”だった。


「こんにちは皆々様、只今よりお仕置きのお時間です」


 女の名前はみょうじなまえ。年齢不詳、好きなものは昼寝と甘いもの、嫌いなものは虐めと徹夜、好きな言葉は徹底的、座右の銘は『過ちを認めざるを過ちという』、職業…


「ああ、申し遅れましたね。私、この度、ある方の依頼により貴方方を更正させるためにこの場に馳せ参じました、仕置き人でございます」


 どうぞよしなに。そうにっこりと笑った彼女の美しさに、中で暴力を振るっていた者たちは背筋が凍え上がるのを感じた。何か物の怪の類か、あるいは妖怪のような…どちらにしても人ではないものを目の前にしたような、そんな感覚。この時彼らは、取り返しのつかない何かが始まる音を聞いた。本当はもっと前からその音は鳴り響いていたのだが、今になって漸く耳に入ったということ自体が彼らの過ちだった。

 女は笑う。無機質で完成された、一分(いちぶ)の隙もない笑みで。







なんかヒロインの性格が可愛くなくてやめました。
ちなみに世界はテニプリ設定でした。

110813