「…本当にいいのか?」

「当たり前よ」





願いが叶うなら、





 いい、と、構わない、とそう言ったにも拘らず、躊躇いがちに目を逸らすティキ。

 そんなティキの顔を見ていたくなくて、いたたまれなくなって、


貴方に殺されるなら、本望。


 再度そう言って行為の続きを促した。

 なのに、その手に持っているナイフを私の首筋に下ろすことはなく、ティキは目を瞑ってしまった。


「やっぱ、ダメ」

「………」

「本望って言われたって…やっぱり無理だ。俺が、お前を、殺せるはず、ないだろ…」


 …泣いてる?発された声は僅かに震えていて、胸がズキンと痛んだ。

 ティキが。あのティキが、泣いちゃうなんて。どうしよう、そんなことされたら、死ぬに死ねなくなっちゃうでしょ?

 …でも、


「ごめんね、ティキ。こんなこと頼んじゃって…」

「………」

「でも私、他の人には殺されたくないの」


貴方以外の人に殺されたくないのよ。貴方に、殺されたいのよ。


 私は、どうやらティキや伯爵様の敵の、エクソシストらしい。私はティキの方が大事、ティキをその力で倒そうなんて思わない。だからエクソシストの武器、イノセンスをあげる、と言ったわ。でも、ダメみたい。敵と内通すると、咎落ちというものになってしまうのだと、言われた。

 それならば、私は死んでしまった方がいい。私が死んでからイノセンスを破壊すれば、私は咎落ちにはならないし、ティキたちが倒される不穏因子が少しでもなくなるのだもの。だから、殺してほしい。

 伯爵様やロードちゃんのことは、好き。でも違うの、ティキとは。どうせ死ぬのなら、愛しい人に殺されたい。

 私の最期のわがままを、聞いて。





願いが叶うなら、ただ貴方と二人でいたかった。





 ただ、ただ、ノアと人間じゃなくて、ノアとエクソシストじゃなくて、貴方と私で、二人の男と女で、まっさらな関係で。

 もう叶うこともないけれど。

 もう、叶うこともないのだけれど。







イノセンスって怖いよね

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