一つ積んでは…父のため…

  二つ積んでは…母のため…

  三つ積んでは…国のため…

  四つ積んでは…何のため…?





可哀想に





 子どもは罪を償うために必死で石を積むのに、酷い鬼はそれを倒してしまうのです。そしてまた子どもは石を積み、倒され、積み、倒され、積み、倒され。一体、その子はいつになったら罪を許されるのでしょう。

 さしずめ今の私は貴女にとっての鬼、といったところでしょうかね。


「ほら、なまえ、ちゃんと働きなさい。いつまでも帰れませんよ?」

「は、い、きくさま」

「いいこですね。きちんと奉公さえすれば、然るべき時には家に帰れますよ」


 なんて、帰すつもりは、ない。元々私のものなのだから、むしろあの子は還ってきたのだ。

 だから、返しは、しない。


「きくさま、つぎはなにをいたしましょうか」

「そうですね…では一緒に寝ましょう、か」

「…はい」


  石を積む

  意志を積む

  意志を摘む

  意志は罪


 こうして夜毎夜毎に貴女の理性という名の石を摘み採る私は、酷い鬼、ですね。

 嗚呼、私に魅入られてしまった貴女。





嗚呼、可哀想に!





「さあなまえ、私を満足させてください。でないとお家に帰れませんよ」

「………」

「…なまえ?」

「…あのこ、は」

「……?」

「あのこ、あのこは、おとつい、おうちにかえりました。あのこも、きくさまに、こんなことをしたのですか…?きくさまは、まんぞく、したの」


 鬼もまた魅入られたのかも、しれない。

 嗚呼嗚呼、可哀想に、可愛いひと。







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