「いや、ちょ…いい、いいってば!ていうか嫌なんだけど!」





天然な彼女





「そんなこと言わないで、だーいじょぶだって!」

「だって青峰くんって、あの青峰くんでしょ?」

「そ。その青峰くん以外どの青峰くんがいるっていうのよ」

「それはそうだけど…でも、だからってなにも青峰くんじゃなくたっていいじゃない!」

「まぁいいからいいから!」


なにもよくない!

 のに、さつきちゃんはぐいぐい私の腕を引っ張って無理矢理連れて行こうとする。この先に青峰くんがいると思うと…正直、気が重い。

 なんだって、最初からハードルマックスなんだ。こんな無理難題、2メートル近い高さを高跳びするようなものだ。男性恐怖症の私が、男子と二人きり。しかも相手はあの、青峰くんときた。

 あーあ、こんな高さの棒、一体誰が跳べるというのよ。少なくとも私には無理。なのに、ね。


「せめて、せめて黒子くんのような人畜無害そうな紳士的な男の子から始めようよ!」

「それでもいいけど、でも最初に青峰くんのように悪魔みたいな男の子からいっとけば後は楽でしょ!」


 一理ある。でもそういう問題じゃない。だって彼なんだか色々と怖いんだもの!私の従兄だってあいつは乱暴すぎるのだよって言ってたもの!


「さつきちゃん、嫌だってホントに嫌なんだって!」

「だいじょぶだいじょぶ!青峰くん、なまえちゃんが思ってるより紳士的だよ?きっと」

「きっとってなに!?」


 ていうかさつきちゃん力強い。ていうかさつきちゃん力強い!(大事な事なので2度言いました)

 なんで、なんで!?同じ女の子なのに、腕なんか私より細いのに!やっぱりあの曲者揃いのバスケ部のマネだけあるわ。


「…さつき?」

「あ、青峰くん!」


 とか、思ってる場合じゃなかった。咄嗟にさつきちゃんの後ろに隠れる。ヤバい、いつの間にか青峰くん(という名のラスボス)がいた!

 と、そう言えばここって校舎裏じゃん。教室から引っ張られて、いつのまにかこんなとこまできちゃってたんだ…つーかノンストップだったのにしっかり靴履いてるさつきちゃんは何者だ。私上履きのままだよ。


「あのー、さつきちゃん、私本当にいいから…」

「青峰くん、はい、なまえちゃん連れてきたよ!」


 バトンタッチ、とさつきちゃんに繋がれてた私の手が青峰くんに渡る。あああああ私男の子と手を繋いでくぁwせdrftgyふじこlp


「じゃ、あとよろしくね!ごゆっくり〜」

「おい、さつき!?」


なまえちゃん、女は度胸だよ!ファイト!


 なんて言葉と素敵な笑顔を残して颯爽と去っていったさつきちゃん。え、ちょ、マジでどうすればくぁwせdrftgyるぱんlp

 落ち着け私、カムバックさつきちゃん!


「…みょうじ」

「っ、はい!」


 は、話しかけられたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ


「あのさ、さつきのこととか俺のこととか気にしないで良いからさ。……帰っていいぜ」

「…え?帰っていいって…?」


 そりゃ、できるものなら今すぐにでも帰りたいですけど!


「みょうじ、男、ダメなんだろ。克服するの手伝えってさつきに言われてここまで来たけど…」


俺みたいなヤツからじゃ、いくらなんでもハードル高過ぎだろ。


 そう言って、爽やかなスポーツマンスマイルを見せる青峰くん。…もしかしたら彼は、思ってるほど怖い人でもないの、かも?(ちょっと今の、以心伝心みたいだったし!)


「だから帰ってもいいぜ。後でさつきになんか言われるだろうけど、気にせずに流しときゃいいしさ」


そうだ、克服したいんならテツから始めたらどうだ?今度俺から言っといてやるしさ。


 やっぱり青峰くんは、優しい人、なのかな。(今のも、以心伝心みたいだった)


「…だいじょぶ、です」

「…え?」

「大丈夫、です。私、青峰くんとお話、したいです」


 勇気を出してそう言うと、青峰くんは私から目を逸らした。あれ、耳が赤い。照れてるのかな………いや、怒ってる、のかも…!


「あの、青峰くんが嫌じゃなかったら、ですけど…」

「い、や、じゃねぇよ!……みょうじがそう言ってくるとは思わなかったから」

「…ダメ、ですか?」

「……いや、俺は…手伝う、よ」


 コホン、と咳払いをする青峰くん。立ち話もなんだし、近くのベンチに座ることにした。


「………」

「………」


 ん、だけど。


「………なんか、喋れよ」

「え、あ、……ご趣味は?」

「おま、見合いじゃないんだから」

「あ、そっか…」

「まぁいいや。趣味…っつーか好きなもんはバスケ」

「エース、なんですよね?」

「…知ってたんだ?意外だな…」

「さつきちゃんが言ってました」


青峰くんは凄いんだよ、って。あ、あと、私の従兄も。


 そう言うと青峰くんはハァ、と息を一つ吐いて、がっくりと肩を落とした。…え、私何か言ったっけ!?褒めたつもり、だったんだけど…


「え、あの、ごめんなさむぐ、!」

「…謝んな。なんか惨めんなる…」


 え、ちょ、近い近いよ!怒ってる、怒ってる、怒ってるの!?


「あ、の、でも、私も青峰くんがすごいって、知ってます!」

「…え?」

「たっ、体育の授業の時、見ました。…すごくきれいで、かっこよく、て」

「………」

「私バスケって、授業で習ったことくらいしか分からないけど、…でも青峰くんは、素敵、でした」


 あれ、私またなにか間違えた!?青峰くん顔が真っ赤!めちゃくちゃ怒ってる!


「…ありがとな、みょうじ」


 そう言って、みたことないくらいふんわりとあたたかく優しく笑った青峰くんに、胸がきゅんきゅんと高鳴ったのは、なぜなんだろう。……もしかしたら私病気かも。





天然な彼女と報われない彼氏





「なまえちゃーん!」

「き、せ、くん…」

「男性恐怖症治ったってホントッスか!」

「あんまり、ち、かづかない、で…」

「…治ってないんスね」

「治ったよ、なぁ?」

「青峰っち!」

「青峰くん、」

「俺限定で、だけどな」

「…え?」

「ちょっときーちゃん聞いて!青峰くんがなまえちゃんと付き合い始めたって!!」

「…え?」

「青峰、ちょっと話があるのだが。うちの従妹に手を出したというのは本当か…?」

「…え?ちょ、どういうことッスか桃っち!」

「どういうこともこういうこともないよ!つまりそういうこと!」

「意味がわかんないッス桃っち!」

「あーもー二回も言わせないで!珍しく頼みごと聞いてくれたと思ったら、そんな裏があっただなんて!」

「計画犯ってことッスか!」

「そういうこと!」

「覚悟しろ青峰!今日のお前のバッドアイテムの緑のハンカチだ!」

「ちょ、バッドアイテムってなんだよ!そんなん占ってどうすんだ!?」

「黙れ!喰らえ!」

「いた、ちょ、ハンカチん中石入って、いた、」

「みどりんやっちゃえー!」

「いけ!そこッス緑間っち!」


「…平和ですね」

「わ、黒子くん。こんにちは」

「はい、こんにちは。…なまえさん、なぜか僕は大丈夫ですよね」

「あ…うん。黒子くん、いつもいきなり側にいるからビックリするけど、大丈夫」

「…平和ですね」

「平和だねぇ」

「(青峰くんも、さっさと言ってしまえばいいのに)」

「? なにか言った?」

「…平和ですね」

「平和だねぇ」







付き合ってない

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